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放課後のアポカリプス  作者: 阿再相利
3/26

焦影

 昏く、灼ける、空。

 夕焼けの色が、影代(かげしろ)鳴委(めい)は好きだった。

 図書室で眺める夕焼けは、ことさら。

 放課後の多くを、鳴は図書室で過ごす。

 それは立生(りゅうせい)、そして鍔裂(つばさ)が補習を受ける時間と重なる。

 補習の対象外となった己に、教室にいる場所は無い。

 気付けば一人、

「この学校は色々な本があるな」

 机を挟んで、前に一人。

 微睡(まどろ)みかけた視線を、ゆっくりと向ける。

 どこか、ふわりとした少年であった。

 体つきが細い訳では無い。

 一見、学ランの上からみれば中肉中背であるが。

 立ち姿が、静かで、重い。

 ただ鍛えているだけでは得られぬ挙措(きょそ)である。

 鳴委の眼が、聴覚が、眼前の少年の縁取りの奥を(さら)い、告げる。

「転校生、の方かしら」

 クラスに来た者と同じ。

 来訪者――戦いの理を知る者。

「よく分かったな」

 血を見るつもりである。

「うちのクラスにも一人ね」

「君はどんな本を読む」

 唐突すぎる問い――意味など無い、おそらく。

 何かしらの機を探っている。 

 ならば探らせる。

「色々、といったところかしら」

 特に本が好きと言う訳では無い。

 だが。

 目的が無い訳では無い。

 弁論術。スピーチ。演説。それらを論じたものや、テクニックに関しての書籍。

 如何にして相手を言いくるめ、黙らせるか。

 他の生徒に使うつもりはない。

 教員相手でもない。

 所詮は付け焼き刃のテクニックでしかない。

 ただ。

 鍔裂だけ。

 鍔裂相手に使うのみである。

 かつては、巧言(こうげん)(ろう)する必要もなかった。

 だが今は。

 もはや、そのようなつながりしか作れない。

 いや、

「もう一人はどこにいるのかしら」

 この時だけは、つながりがある。

「さて」

 視線を巡らせる。

 影は、まだある。

 椅子の影に爪先を、

「……まぁ」

 苦く、熱い臭気が沸く。

 上履きの裏。ゴムが焼けている。

摩利支天(まりしてん)(ほう)……間違っても祖霊(トーテム)を呼んで渡ろうとは思うなよ」

「間違っても来ることはないわね」

 嘆息し、鳴委が、跳ね上がる。

 左手が、スカートの縁を押さえ、右脚が躍る。

 閃き、巡り、

「見切れんか」

 少年の顎を掠め、

「安くはないのよ」

 机の縁に、腰かける。

 脚を組む。

 見せつける。

 夕焼けにあっても、艶めかしい白さが滲む。

 かすかに汗ばんだ肌に。

 少年は、見る。

 脚を縁取る、煽情(せんじょう)的な線。

 その奥。

 太く、鋭く、練り上げられた筋肉の脈動を。

「出来ればこのまま本について語らいたいところだが」

 改めて、少年は一歩出る。

 戻る。

 蹴りは見切った。

「この調子では」

 だが――

「病院では済まなくなる」

 ――この女はまだ蹴れる。

 もっと速く、鋭く。

「この月法寺(げっぽうじ)(まもる)、女を傷つけた事は無い」

 声が、震えている。

 唇が引き結ばれ……その端が、歪む。

「……無いのだ」

 月法寺護は、笑みを隠し切れなかった。


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