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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第四章 rack&pinion
99/119

2-37

 合宿最終日は、他校のチームを招いて練習試合を行うことになった。

 とは言っても、試合をするのは男子だけだ。


 女子は試合の相手が捕まらず、いつも通りの練習メニューとなった。それ(ゆえ)女子チームから多大な不平不満が零れたのは、当然の成り行きである。


「合宿の最終日ということで、疲れもピークに達しているかと思います。でも、だからこそここで試合をやる意味はあると思うんです」


 アップを終えた大翔たち男子チームを前にして、花都先生が言った。


「勝敗は問いません。今日は特に指示も出さないつもりです。みなさんそれぞれで、今回の合宿で得たものを存分に発揮してください」


「「はい!」」


 一同は元気よく気合の入った返事をした。

 それを満足そうに一折見回し、花都先生は続ける。


「一番長内くん、二番早坂くん、三番白峰くん、四番木ノ葉くん、五番百合ヶ丘くん。スタートはこの五人で行きますが、試合展開に関係なく選手はどんどん入れ替えていくつもりなので、みなさんしっかり準備しておいてください」


「「はい!」」


 そこで花都先生は、パンパン、と景気づけに手を打った。


「風見鶏高校新チーム、初の練習試合です。張り切って行きましょうね!」


「「はい!」」


 こうして、新チーム始動来の初の他校戦――超歩危(ちょうぼけ)高校との練習試合が幕を開けた。


   *


 まさか自分がスタメンに選ばれるとは。


 嬉しい反面、どこか心の準備が追い付かないでいた。紡にとって、練習試合とはいえ、こうした他校との試合に出るのは実に二年ぶりのことだ。冷静でいろという方が無茶な注文かもしれない。


 そんな中、三年生の先輩である木ノ葉が、紡のすぐ傍までやってきて(ささや)いた。


「俺と白峰でスリーを狙ってディフェンスを外に引き出すから、お前は逆サイドからカットイン狙え。百合ヶ丘にボールが入ったときにも注意しろよ。アイツはノールックでもバンバン外にボール出してくるから。一瞬たりとも目を離すな」


「は、はい。わかりました!」


 考え事をしていたところに突然言われたものだから、思わず返事が上擦ってしまった。それを聞いた木ノ葉はからかうように笑いながら、


「どうした。緊張してるのか」


 たまらず紡も苦笑いになる。


「すいません。ちゃんとした試合って久しぶりなんです」


「そうか。まあ、始まっちまえばすぐになれるさ。ミスは気にしなくていい。思い切ってやれ」


「は、はい!」


 そう返事をしたところで、審判が笛を鳴らす。風高五人と超歩危高校の五人が一礼し、「「お願いします!」」と声を揃えた。


 そしてティップオフ――試合開始だ。

 最初の攻撃権を得たのは風高だった。


 一番――ポイントガードの長内修にボールが渡る。力強いドリブルで彼がセンターラインを越えるころ、すでに百合ヶ丘はインサイドに自ら場所取りし、白峰と木ノ葉はそれぞれ右サイドと左サイドに散開していた。


 紡はとりあえず長内のフォローに回ることにする。ひとまずは様子見だ。出鼻でミスをすると後々やりずらい。冷静に、慎重に、ここぞというときが来るまで待っ――


 そう考えたところである。


 あっという間であった。


 力強くもゆっくりとしたドリブルで上がっていた修が、途端に鋭く切り込んだ。その動きと入れ替わるように白峰が修の後ろに回る。


 そして白峰にパス。

 続けざま流れるように、インサイドの百合ヶ丘にボールが渡った。


 そしてワンドリブル、ツードリブル。百合ヶ丘はドリブルで中へと切り込む。慌てた超歩危高校のディフェンダーたちが百合ヶ丘を止めに来るが、それは明らかに失敗だった。


 いや、いずれにせよ。そのままでは百合ヶ丘が点を取っていただろう。だから超歩危高校勢のその判断が悪かったとは言い難い。


 百合ヶ丘は、あっさりノーマークにされた木ノ葉を見逃さなかった。自らシュートを狙う素振りを見せつつ、ノールックで木ノ葉へとパスを出す。


 この試合の先制点は、木ノ葉によるスリーポイントシュートだった。

 試合開始九秒。超歩危高校の出鼻をくじくには十分だった。


「……すごい」


 風高メンバーの中で一人きょとんとしている紡は、思わずそう呟く。

 不意に木ノ葉に肩をとんと叩かれた。


「遠慮してる暇なんてないぞ」


「え?」


 本日の風高のディフェンスのフォーメーションはハーフコートマンツーだ。紡たちは素早く自身のゴールを死守するべく、自陣側へ戻って行く。


 そんな中、ニッと不敵な笑みを浮かべつつ、木ノ葉は続けた。


「お前の持ち味はなんだ?」


 紡の中で、歯車がカチッとかみ合う感触がした。


 ――僕の、持ち味……


 聞かれるまでもない。

 もっと言ってしまえば、考えるまでもない。

 なにせ、その持ち味を伸ばすために、この二年間を費やしてきたのだ。


『俺は、あんな風に強気で攻めていける君が羨ましい』


 その持ち味を教えてくれたあの人の、あの日の言葉が脳裏を巡る。

 尊敬する飛永先輩が、羨ましいとまで言ってくれた僕の持ち味。


 今こそ、二年間の特訓の成果を見せるときではないか?


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