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会場内の喝采の嵐が外にまで漏れ出てきている。
駐車場から館内へと入って行く人波は途切れない。もうすでに敗退してしまったチームや、今日試合をする選手の親や親せきや学校の皆やら、色んな人々がわくわくとした様子で中へと入って行く。
チームメイトとパス回しをする合間に、大翔はそれを横目で見ていた。これから自分たちが試合を行う会場に、恐ろしくなるくらいの多くの人が入って行く。正直あまり直視したくない光景だ。
観客が多ければ多いほど、緊張は加速する。それもそのはず、逃げ場も隠れ場もない八方が開けたコートの中で、一挙手一投足を数百の視線のもとに晒されるのだ。
特に決勝戦なんかは地方のテレビで流されたりするので、さらにケタは上がるだろう。そんな状況下、試合中に下手なことをすれば、名も顔も知らない人に、「なにやってんだよ○○番、さっきからミスばっかりしやがって」と吐き捨てられるのだ。
一つのミスを犯した瞬間、その目に見えぬ罵声に当てられて、悪循環のスパイラルにたちまちのうちの飲み込まれる。
「ん? 飛永。なにボーっとしてんだ?」
「あ、すいません」
木ノ葉に言われ、嫌な思考を断ち切った。自分に向かって飛んでくるボールをキャッチし、次の相手に投げ返す。そしてまた別の列に加わりつつ、大翔はため息をついた。
「…………はぁ」
大翔は、自分のことを本番に弱いタイプだと自覚している。
そもそもとして人前が苦手だ。何かの舞台に立たされて、みんなの前でしゃべらされたりするのなんか大嫌いだ。心臓のバクバクが止まらないようになり、喉がすぼまって上手く声が出せないようになってしまう。人前でも何の気なしに生き生きと立ち回って、さらには笑いまで巻き起こす、「コイツその辺の芸人より面白いだろ」なんて言われるような者たちは、別の星の生命体のように感じてしまう。
もちろんバスケの試合でも同じだ。できるだけ緊張をみんなに移さないように何の気なしに振る舞っているが、内心では恐らくこの場の誰よりも目の前の試合に怯えている。今はトイレから戻ってきて、アップに参加しているストマックエイク的場よりもだ。
なぜなら大翔は二年生。
にもかかわらず、この双肩には全十二人の三年生の最後の夏がかかっている。正直試合を楽しむ余裕なんてなく、叶うならば今すぐにでもこの場を逃げ出したいのが本音だ。
でも――
「いぎっ!」
突然、後ろからほっぺたを引っ張られた。
後ろを振りかえると、
「大丈夫か堅い顔して。リラックスリラッークス」
さらに肩をポンポン。犯人は修だった。
風見鶏のベンチに座る、数少ない同学年。
「先輩らはみんなわかってるからな。お前は自分のできること、精一杯やったらそれでいいんだ」
「……修」
言われ、しばし修の目をみつめてしまう。コイツこんなこと言うキャラだったっけな、と頭の片隅で考えてしまう。「と、雫さんから伝言が」続いた修の言葉に対し、大翔はガクンと膝を折った。そして深いため息をついた後、
「ぶっとばすぞ」
「――って、返しとけばいいのか?」
「今のはお前に言ったんだよ!」
大翔はそう吐き捨てて、ため息交じりに前へと向き直る。
そうとも、修はこういう奴だ。面と向かってあんなこと言われたらどこか調子が狂ってしまう。だから、その優しい言葉にも、お礼の言葉は返せなかった。
でも、それでいいのだった。