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午前中は主にコート全体を使った「大きな動き」の練習だったのに対し、午後は「細かい動き」の練習となった。
例を挙げれば、シュート練習やディフェンス練習、ゴール付近での一対一、二対二、三対三。本当は四対四や五対五までやりたいところであるが、残念ながら男子は部員が七人しかいない。
そしてその最中、ディフェンス練習にて。大翔はある大役を任せられた。
「え? 俺が教えるんですか?」
「はい、ぜひお願いしたいと思います」
花都先生は至っていつも通りの笑顔でそう言った。
「ディフェンスに関しては、むしろ私より、飛永くんの方がよくわかってると思うんです」
正直それはどうだろう、と思った。でもそう言われて誇らしかったのは、恥ずかしながら認めよう。
「風高の平均身長は男女ともにけして高くありません。今年は今まで以上にディフェンス力の強化が必要になります。全員が飛永くんレベルに、とは言いません。それでも全体の底上げをお願いしたいんです」
「もちろんいいですが、正直あまり自信は……人にものを教えたことなんてないですし」
「もちろん完璧なんて期待していません。それでも私が教えるより、飛永くんが教えた方が良いだろうと判断して、お願いしてるんです」
花都先生は小首を傾げ、ニコッと微笑む。
「とりあえずこの合宿中、毎日一時間、あなたに部員全員を預けます」
任せた、というように、彼女は大翔の心臓のあたりに、拳をトンと置いた。
「あなたはそれほどの選手です。ことディフェンスに関しては、もっと自分の実力に自惚れていいと思いますよ」
というわけで。
大翔を取り囲むようにして、部員一同が集まる。
ここで言う一同は、女子も含めた一同だ。
「じゃ、僭越ながら、少しの間ディフェンスのコーチをさせてもらいます」
大翔がぼそりというと、男子陣があからさまに大きく拍手を送ってきた。
「じゃ、じゃあ、とりあえずいつも通り二人一組に分かれて! 気になるところがあったらその都度止めていくんで」
「「はい!」」
おお、と大翔は人知れず頬を紅潮させた。野太い男どものしゃがれた返事はともかく、女子たちの透き通るような黄色い返事には来るものがある。まるでハーレムの主になったかのようだ。自分はこんな時にいったい何を考えているんだろうか。
そんな自分をよそに、部員たちはめいめい練習を始める。
今行っているのは、作った二人一組のペアで、片方がオフェンス、もう片方がディフェンスに分かれて擬似的な一対一を行うものだ。
擬似的というのは、ここでのオフェンスはドリブルを使わず、ラガーマンよろしくボールを抱えて走るためだ。左右に相手を揺さぶりつつコートを駆けるオフェンスを、ディフェンスの側はしっかりと追いかけ、進行方向へと回り込む、その繰り返しである。
単純な練習だが、それゆえにディフェンスの練度がその練習風景にも如実に表れる。普段はあまり思わなかったが、こうして傍目からみんなを眺めていると、この練習の意味を理解していない者も何人かいるようだった。
大翔は近寄っていく。
「野々瀬さんに湯木さん、河野さん、道繁さん、あと大文字。悪いんだけど、ちょっとこっちに来て」