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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第二章 鉱脈のありか
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2-25

   4


 合宿二日目。

 本日も順調に、花都先生は乱れ裂きモード炸裂であった。


「はいはい! しっかり声出してください! シュートも落としちゃだめですよ。もし落としたら、『ふりだしにもどる』ですからね!」


 あくまで笑顔で言う花都先生であったが、言ってることはわりとえげつない。


『ふりだしにもどる』


 なんという恐ろしい悪魔的言葉であろうか。


 これまでの努力が一瞬にして水泡に帰す。無に帰る。一夏かけて懸命にやり抜いた夏休みの宿題が忽然と姿を消す。一日一時間の縛りの中、こつこつとレベルアップに勤しんできたRPGのゲームデータが謎の全消失。髪型も気にして、身の振る舞いにも注意を払い、ついにこれまでこつこつと貯めてきたあの女の子の好感度を試すとき。『あなたがずっと好きでした!』『ごめん、生理的にムリ!』


 今までの自分の努力はいったいなんだったのだろうか。

 失礼、話を戻そう。


 例えばバスケにはツーメンという練習がある。コートを長い方向に縦割りし、二人一組でパスをしながら走り抜け、最後にシュートするというものだ。


 これは速攻――いわゆるファストブレイクを意識した練習であるが、これを長時間反復的に行うことによって、体力を増強させることもできる。なにせコート全体を使う練習であるから、運動量もバカにはならないのだ。


 で、ここで重要なのが、先ほど言ったようにこの一連の練習の締めは、シュートだ。そのシュートの後、つぎのペアが入れ替わりでまたコートに出て行って、同じことを繰り返す。


 ところでこれは一般的というわけではなく、あくまで風高での、しかも合宿中の特別ルールとしてであるが、連続でシュートを百本決めることによって、この練習は終了となり、次のメニューへ進めることになっている。


 あくまでも、連続で、だ。

 では万が一誰かがシュートを落とせば、いったいどうなるというのか。


 もうお分かりであろう。『ふりだしにもどる』だ。


 そしてこれの怖いところが連帯責任であるというところだ。みんなが必死に頑張って、つなぎにつないで、自分の一つ前の人がとうとう九十九本目を決めた矢先に、次の番である自分がシュートを落としてしまった日には、泣いてしまうかもしれない。


 責められてではない。そういうときはみんな妙に優しくしてくれるもので、その優しさにこらえきれずに泣きそうになってしまうことが多分にあるのだ。


 そう。我らが風高バスケ部は、ミスを憎んで部員を憎まず。たとえシュートを何本落としたところで、その部員を怒鳴り散らしたりするようなことは――


「くらぁ! 大文字ぃ! てめぇ何本落としたら気が済むんだよぉ!」


 七十七本目でシュートを落としてしまった大文字を見て、修がズッコケる。その背後では彪流が「あっちゃー」と顔に手を当て、紡は心配そうな目で見守っていた。


 そんな中一人だけ喜色満面の笑みを浮かべている人がいる。花都先生だ。


「はい、じゃあもう一回、一本目からですよー。集中力切らさないように!」


「「はーい」」


 部員一同の返事は気だるげだった。

 ここで言う一同は、男子七人のことだ。


 女子組は女子だけでこの百本連続に挑戦し、見事成功。すでに次のメニューに移っている。

 しかしそれが大してうらやましいとも思えないのは、その次のメニューも地獄みたいなものだからだろう。


 名をスリーメン。

 簡単に言えば、ツーメンを三人でやるバージョンみたいなもの。ノルマは同じく百本連続。 


 気は確かか。花都先生。


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