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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第二章 鉱脈のありか
85/119

2-23

 というわけで。

 2ON2だ。

 大翔&大文字 VS 紡&彪流。


 と言ってもゲーム形式のものではなく、紡のチームが常に攻めを行う反復練習だ。ただし無駄なドリブルを減らすため、連続でのドリブルはツードリブルまでという制約付き。これにより攻め手である紡たちは単純な一対一からのドリブル突破頼みではない、コンビネーションを用いた攻撃法が求められる。


 逆に大翔たちは、声をかけあってそれらに対応しなければならない。上背のある彪流ならポストプレー(ゴール近辺で、リングとディフェンダーを背にした状態でボールを受け取って行うプレー。主に上背のある選手が行う)も使ってくるだろうし、紡はロングシュートもガンガン狙ってくるタイプなので、アウトサイドプレーも警戒しなければならない。


 しかしまあ、やる前からごちゃごちゃ考えても仕方あるまい。大翔は大文字の方を見やり、


「まあとりあえずやってみるか。気になるところがあったら、その都度言ってくから」


「おっすっ! よろしくお願いしやぁっス!」


    *


 紡のマッチアップの相手は大翔だった。身長的にもポジション的にも妥当というところだろう。

 しかし実力的にも拮抗しているかと言えば、それは不遜に過ぎると言うものだ。胸を借りるつもりで、玉砕覚悟で挑む所存である。


「じゃあ行きます」


「おう」


 大翔の返事を聞き、紡は大翔にボールをいったん渡す。

 そのボールが紡のもとに投げ返された瞬間、彪流がすさまじい瞬発力でマークマンの大文字を振り切った。


 しかし風見鶏の守備の要である大翔はさすがというべきか、背中に目がついているかのように絶妙な立ち位置に体を滑らせた。紡と彪流を結ぶ一直線上に立つ大翔が巧みにパスコースを塞いでいる。


 それを越える形での山なりの上パスを狙えないでもないが、それだと球速が落ちる。それが彪流のもとに届くころには大文字がすでに彼に追いついている――


 そう判断した紡は無理にパスを狙わず、Vカット(V字状に素早く走り、マークマンを振り切る動き)でこちらに再び駆け上がってくる彪流を待った。彪流にボールを預け、今度は紡がゴールに向かって走る。


 瞬間だった。

 その動きと、彪流のドリブル突破が交錯する。


 紡をつっかえにして大文字を振り切る――その彪流の動きは的確だった。優れたフォワードに必要とされるのはディフェンダーの意表をつく一瞬のひらめきだ。チームメイトとしての付き合いはまだ長いとは言えないが、彪流のこういった判断の良さと思い切りのいい動きにはこれまで何度も驚かされている。


 しかし問題は、それが大翔にとっても想定外の動きであったかどうかということである。


 ――そんなわけがなかった。


 大文字の目の前にすでに大翔がいた。「スイッチ!」と大翔が叫ぶ。マークマンはすでに入れ替わっている。


 それを見た紡は慌てて開く。バスケのオフェンスに置いて密集するのは基本的に良いことではない。いかにして攻め込むためのスペースを作り出すか、それが肝と言ってもいい。


 少し荒っぽさはあるが瞬間のスピードではかなりのものがある彪流の渾身のドリブル突破をもってしても、ツードリブルでは大翔を抜ききれない。


 しかも大翔は彪流を抜かせないだけでなく、紡へのパスコースもしっかりカバーしていた。周りから見た派手さはないが、これは相当な状況判断能力が必要になる。


 抜くことも、パスを出すこともできなくなった彪流はそこで止まるしかない。


 詰まった。


 嫌な時間だ。オフェンス側にとってこれほど焦りに駆られる時間はない。さらに大翔は容赦なく彪流にプレッシャーをかける。その間彪流はピポッドターン(軸足はそのままで、もう片方の足を動かしてターンする動き)の連続で懸命にボールを死守する。


 結局紡は彪流のほぼ真後ろにまで回り込んでパスを受け取る形になった。攻めるどころか、ゴールからどんどん遠ざかって行く。


 時間もない、攻め手側は攻撃が始まった瞬間から24秒以内にリングにボールを当てるかシュートを決めるかしなければオーバータイムで反則となる。今はただの練習なのできっちりタイムを計っているわけではないが、だからと言ってそのルールは無視できない。そんな練習になんの意味もない。


 ――これがラストチャンスだ。


 紡は覚悟を決めた。

 そしてそれは彪流も同じようだ。同じ手は効かないと判断してか、マークマンである大文字を持ち前の上背を駆使して抑え込み、フリースローライン近辺でポストアップ。当然そこにボールは入れさせまいと大翔はパスコースを塞ぐ。紡と少し距離が離れた。


 紡は貴重なツードリブルでスリーポイントラインの真ん前までやってきた。ロングシュートは特別得意というわけではないが、狙えなくはない。紡はシュートの構えをとる。


 瞬間だった。

 大翔が素早く肉薄してきた。


 ――弾かれる。紡は判断を下し、シュートの構えから彪流に向かってパスを出す。右手のみを使ったワンハンドバウンドパスだ。大翔の接近を予想しての判断である。さすがに大翔と言えど人間である以上、フロア面ギリギリをすり抜けるパスには手が届かなかった。


 そして彪流にボールが渡る。紡はすぐさまダッシュし、彪流の横を駆け抜けた。そこで彪流が抜け目なく入れたフェイントにバスケ初心者である大文字はあっさり翻弄(ほんろう)された。横をすり抜けた紡にボールを預けたか――と思った大文字は紡の方を追いかけたがそこにボールはなかった。彪流は自らゴールを狙う道を選択した。


 紡もその選択に間違いはなかったように思う。大文字はちゃんと惑わすことができた。彪流の自らに対する過信によるものでもない。あくまで冷静で正しい判断のもとに行われたプレーだった。


 しかし。

 ゴール下で放たれた彪流のシュートは、背後から追いすがった大翔によって弾かれた。

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