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部員一同かいしての夕食も終わり、一階の男子二年生部屋にいた大翔は、特に何をするでもなく自分のベッドで横になっていた。
一年生トリオが訪ねてきたのはそのときだ。
「し、失礼します」
まず初めに紡が恐る恐ると言った感じで顔を出し、その後ろから新谷彪流と大文字風雅の声が続いた。
「どうもッス」
「お疲れのところ申し訳ないっすぅっ!」
「おう来たか。というかなんか暑苦しいのもいるなぁ……」
大翔は苦笑いしながら、二段ベットの下から這い出て、一年生トリオの方へと向かう。
「あ、ごめんなさい。自主練のこと話したら、彪流くんと大文字くんも行きたいって」
紡が申し訳なさそうにそう説明した。
「お供しま~す」
「勉強させてもらいやすっ!」
彪流と大文字は元気よくそう言って、手に持っているバッシュとタオルを見せてくる。どうやら二人も自主練を行うつもりらしい。
「彪流お前、さっきぶっ倒れてたところだろ。寝てろよ」
「いやいや、大丈夫ッス。あれはただの腹の減り過ぎなんで。大翔先輩のカレー食ったらすっかりよくなりました」
あれだけの練習量をこなしておいて、随分とタフな奴らだ。大翔は嬉しそうに笑いながら、頼もしい後輩たちの同行を許可した。
「R&G由岐海洋センター」のアリーナ内では、すでにバスケットボールが床やリングを叩く音が響いていた。
紡、彪流、大文字の三人を引き連れた大翔はその館内に足を踏み入れる。すでに自主練を開始していたのは、修、白峰、硲下の男子メンバーと、雫や加寿美をはじめとした女子部員の二年生を中心としたメンバーだ。
これで男子部員は全員が揃ったことになる。女子はさすがに全員とは行かなかったようだが、これは普通のことだ。合宿経験のない一年生は多少余力があるにしても、明日以降のことを考えて体を休めておくのが賢明というものであろう。
むしろ心配なのは、今ここに来ている紡たち三人のほうである。みんなやってるから、じゃあ自分もと、無理をしているだけではないだろうか。
かと言ってやる気に溢れている彼らの向上心に水を差すのもなんだ。彼らがタフであることは事実だし、ここはやれるところまで好きにやらせてみようと思う。
「じゃあ、早速やるか」
軽くストレッチしたのち、大翔は紡に言った。彼とは1ON1をやる約束をしていた。
「あ、実はそのことなんですけど」
そう言うと、紡は大文字の方に顔を向けた。冗談としか思えないほど躍動的に巨体を動かしながら準備運動していた当の大文字は、紡の視線を受けて、
「実は自分ディフェンスのことで今壁にぶつかっておりまして、その辺のことでできれば大翔先輩にご教授いただけないかとっ!」
大文字は勇ましく仁王立ちした状態から、頭をぶんっと下に下げる。その様子に大翔は目をぱちくりとさせ、
「うん? ああ、そりゃもちろん全然いいんだけど。紡との約束が先だからなぁ」
大文字の願い出は願ってもない。バスケ未経験の彼には、早くある程度のデイフェンス力を身に着けて欲しいと思っていたし、その方面は唯一自分が自信を持って教えてあげられる分野である。紡との約束さえなければ、二つ返事で受けているところだ。
「それが終わったあとでよかったらいくらでも……」
「ノンノンノン! 二人同時に鍛えてあげる方法があるッスよ、先・輩!」
不意に背後から元気のよい言葉を吹っかけてきたのは彪流だ。彼はバスケットボールをリングに向かって放ったのち、こっちを見る。
「え?」
「2対2スよ。俺と紡が攻め、先輩と風雅が守り。ここはこれしかないでしょ」
彪流の放ったシュートは、リングの手前を掠ることもなく、無様にすり抜けていった。