表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第二章 鉱脈のありか
79/119

2-17

「じゃ、とりあえず合宿所に帰るか。腹減ったし」


「そうですね」


 大翔は腰を上げて、紡の隣に並び立つ。合宿所までは徒歩だ。

 しかしいざ帰ろうとしたそのとき、背後からふと声をかけられた。


「あ、よかった。まだいた」


 声の主は硲下(はざか)要一だ。例の、一人電車から降り過ごしていたマヌケ君である。しかし彼も午後からの練習開始時間にはちゃんと合流していた。


 とまあ、それは置いといて。


「どうしたんだよその恰好……」


 硲下の恰好――バスケの練習着であるが、その有様がひどい。頭やら肩やら背中やらに、ほこりやら汚れやらがありありと見受けられる。


 それを指摘すると、当の硲下は一瞬きょとんとしていたが、


「ああ、これ? これはさっき体育倉庫の窓からまろび出たときに汚れた」


「は? なんだってわざわざ窓からまろび出たんだよ」


「それは――」硲下は一瞬どこか遠くを見据え、「倉庫で片付けしてたら、外からカギを閉められちゃって。すぐに開けてって言ったんだけど……ほら、俺の声って通らないから」


 こんなに悲しい話があるだろうか。大翔のまなざしが思わず優しいものとなる。


「そうか。あとで部員みんなに言っとくよ。倉庫のカギを閉めるときは、中に硲下が残ってないか確認するように、って」


「うん、助かる。暗いとこ苦手だから」


 本当にコイツはなんなのだろう。心の内からかきたてられるこの保護欲はなんだ。これが父性⁉ 父性か⁉


「で? 何か用があるんだよな? どうした」


 ふと、硲下が何か言おうとしていたことを思いだし、大翔はそう促した。


「あ、そうだった。大翔のことを、天野さんが呼んでた」


「え、雫が⁉」


「うん」


 大翔は血相を変える。道端に一万円が落ちているのを見つけたときでも、ここまで顔色を変えはしないだろう。


「ばかお前それを先に言えよ! 最優先事項じゃねぇか! どこにいるんだ?」


「体育館の入り口のトイレんとこ」


「わかった、サンキュ!」大翔はお礼を言うなり走りだし、それから一度振り返って、「お前はもう先に帰ってていいぞ。紡も後でな」「あ、はい!」紡は可愛く返事した。


 そして硲下は、


「うん、わかった。……あ、帰りにアイス買ってもいい?」


「そんなのお前の好きにしろよ! 俺はお前の母ちゃんかっ!」


 呆れ気味に怒鳴りつけて、大翔はその場を後にした。


 向かうのはもちろん「R&G由岐海洋センター」のアリーナの正面入り口だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ