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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第二章 鉱脈のありか
77/119

2-15

   1


 こめかみを伝う汗が激しい挙動に煽られて、じめつく空気のただ中へと霧散した。疲労の蓄積を訴え続けているふくらはぎを、それでも気力を振り絞って全力で跳ね上げる。


 ――あと十秒、いや……五秒くらい、か?


 大翔はちらっと頭の片隅で算用しながらも、懸命に体を動かし続ける。


 バスケットシューズのソールが体育館のフロアを蹴りつける度に、キュッ、キュッ、と言う摩擦音が館内に木霊する。そしてその音は大翔のバッシュからだけではなく、館内のあちらこちらから響いていた。


 やがて、ビー、というタイマーの電子音が鳴り響くのを聞き、大翔は足を止めて、膝に手をついた。俯けた顔から大量の汗がフロアにポタポタと落ちていく。


 その様子をしばらくは何気なく見ていたが、


「あ、やべ」


 ふと思い至り、それを慌ててバッシュでごしごしと伸ばした。濡れたフロアはよく滑り、とても危険なのだ。


 それから大翔は顔を上げて、周囲を見渡してみる。

 視界に移ったのは、死相をありありと見せつけている精根尽き果てたと言わんばかりの部員みんなの姿だった。


「おえ、おえええ……」「もうダメ……もうほんと死んじゃう……」「まんじゅう怖い、まんじゅう怖い」「ここはどこ? わたしは誰?」半数近くはもはや気もそぞろで、紡ぐ言葉に狂気を感じるような子さえいる。


 その大半は一年生部員だった。その原因はたった今行っている下半身トレーニングだろう。一分間のローテーションでトレーニングと休憩を繰り返すこの苦行に、正気を奪われつつあるのだった。


 そのトレーニングというのは、ハーキー(両足を交互にバタバタと踏みかえること)と同時並行で先生の笛に合わせて体の向きを変える物だったり、先生の指差す方向に向けてカニ歩きよろしく体をスライドさせるものだったり、と様々だ。


 説明だけ聞けば「別に大したことないんじゃね?」と思うかもしれないが、そんなセリフを今ここで吐いたりすれば、二秒でしめあげられてしまうことだろう。


 実際、これはかなりきつい。これは主にディフェンス力の強化に主眼を当てたトレーニングであるが、もはやそんなもの超越している気もする。自分は仙人になるための修行でもさせられているんじゃないだろうかと疑ってしまうレベルである。


「はいはいあと十秒ですよ、みんな立って立って」


 そんな中、花都先生がみんなに向かって声を張る。タイマーを見れば残り9秒、――8秒。8秒後にこの束の間の安息が終わり、再び地獄の六十秒が始まるのだ。


 ディフェンスの動きに長け、スタミナにも自信がある大翔は何とかその一分で気息を整え、次なる地獄に向けて、腰を落とし膝を曲げてディフェンスの構えを取るが、他の大半のメンバーの後ろ姿は完全におじいちゃんだった。


 震える足でよろよろと立ち上がり、足を曲げるのではなく腰を曲げてしまっている。あの姿勢では守れるものも守れない。


「みんな顔を俯けるな。姿勢を起こせ、前を見ろ」


 大翔がそう言うと、真面目な一年生たちは、よろよろながらも、くいっと姿勢を起こし、腰を下げて見せた。


 上出来だ。大した根性だと思う。大翔は花都先生の方にちらっと視線を向ける。


 すると花都先生は軽く頷き、


「次がラストです。みんな頑張ってください」


「「はい!」」


 同時に、ブザーが鳴る。全員が一斉にフロアを両手で叩く。


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