2-14
発信中の大翔の携帯に、大翔自身と修が耳を寄せる。
イライラが頂点を向かいかけた七回目のベルの後、
『ああ……もしもし?』
やや寝ぼけた声が電話口から返ってくる。
それに対して大翔は怒鳴りつけるように、
「お前今どこにいるんだよ!」
『え、どこって……』
電話の相手――硲下要一は周りを見渡すくらいの間を置いたあと、
『電車だけど』
大翔と修はほぼ同時にその場に崩れ落ちた。
「そう言えば、電車に降りた時からアイツいなかったような気がする……」
「誰か気づけよ……いや、俺も人のこと言えないけどさ……」
硲下を怒るどころか、その硲下の間抜けっぷりを忘れていた自分たちに落胆する大翔と修。その二人の耳元に未だ暢気そうな声で、
『なぁ、向かい側の人が迷惑そうな顔してるから電話切っていい? 一応ここ電車の中だし』
「ああ……そうだな、悪かった。俺たちが悪いよな」
大翔はとても優しい声でそう答える。
すると硲下は、『じゃあ切るよ……ていうか、あれ、大翔たちは今どこにいんの? 今日って一緒じゃなかったっけ?』今更のように尋ねてくる。
大翔は小さな子供に語りかけるように、
「ああ、実はな。俺たちはもう先に降りたんだ。すでに合宿所にいんの」
『そっか。……あれ、じゃあなんで俺は電車の中にいるんだ?』
「それはな、お前だけ降りてないからだ」
『そっか。………………あれ?』
ガタンゴトンという電車の音が電話越しに聞こえる。硲下は少しの間考え込んだあと。
『それはいいのか?』
「よくないな。非常によくない」
『どうしよう。どうすればいい?』
「とりあえず近くの人か、車掌さんに聞いてみ? 田井ノ浜ってとこに行きたいんですけど、どうすればいいですかって」
『わかった、聞いてみる。退魔の刃だな』
「お前は魔王を討伐にでも行くのか? 違う、田井ノ浜だ」
『田井ノ浜か。どこかで聞いたことあるな』
「ああ、だって俺たちそこ行くのもう四度目だもの」
『そっか、もう四度目か』
「時が経つのは早いな」
『じゃあまた後で』
「気をつけてな」
『うん』
「じゃあ」
通話を切って、待ち受けに戻った画面をどこか遠い目で大翔は見つめる。
「すげぇな、バカもここまで極まると怒りを忘れてしまう」
「憎めないバカっているよな。アイツはほんと人生得してると思うわ」
大翔は自分自身を決して頭がいいとは思っていないし、むしろバカの部類だと思っている。そしてたった今隣にいる修だって、その自分よりさらにワンランク下のバカだ。しかし、
硲下要一はそんなチンケなものを超越した存在なのではないかと思う。バカと天才は紙一重と言われるが、その言葉はもはやアイツのためにあるんじゃないかと思ってしまう。
一方、白峰郁は新谷加寿美以上の秀才で、学年で三本の指に入る学業成績に加えて、次期生徒会会長候補にあるにもかかわらず、人間的にバカなのだった。
木ノ葉先輩たちが自分をキャプテンに選んでくれたとき、自分がそんなものにふさわしい人材なのかと心底疑ったものだが――
――もしかして……
もしかしたら、消去法で選択肢を消して行った結果、自分しか残らなかっただけなのではないだろうかと、そんなことを考えてしまう16歳の夏。