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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第一章 16度目の夏
73/119

2-11

 ガタンゴトンと規則的にそして断続的に揺れ続ける電車に腰を落ち着ける頃、風高バスケ部キャプテン飛永大翔は色んな意味で疲弊しきっていた。


 全力での自転車漕ぎも二十分近くにまでなるとバカにできない。


 しかも合宿用の大荷物を抱えてだ。結果的に電車の時間には間に合ったものの、バスケ部での駅前集合時間には遅れた。監督である花都先生もバスケ部員のみんなも、遅刻に関して特に怒ったりはしなかったが、冗談交じりに合宿所でのトイレ掃除を任ぜられた。


 まあそれくらいなら全然いい。取るに足らないことだ。今自分が疲弊しきっている原因はそこじゃない。

 

 大翔は今電車の側面に背を向ける形で座っている。右隣には同じ二年で副キャプテンの長内修、左隣には一年で女の子ように可愛い顔をした早坂紡がいて、そのそれぞれの隣に続く形でバスケ部男子チームが横並びに座っている。


 全部で七人だ。


 三年の受験生組である木ノ葉之平先輩と百合ヶ丘春臣先輩は、学校の模試がある関係で、此度の合宿の前半三日間は参加できないらしい。その二人は四日後から――つまり後半から大翔たちと合流する予定である。


 その二人が欠けた状態での合宿スタートと言うのもまあ残念と言えば残念ではあるが、別にそれが原因で心をすり減らしているわけでもない。


 彼らが前半部の合宿に参加できないことは、その予定が決まったときからわかっていたことだし、そもそも受験を控えている彼らが練習に参加できないのは常日頃からままあることだ。今更それくらいで気落ちしたりしないし、むしろその二人の分まで頑張らなくてはと思うくらいである。


 ではなぜ、今自分は五秒に一回の頻度でため息をついているのか。

 原因は、大翔の斜向かいに腰かけている少女だ。


 直す暇がなかった寝癖を気にしているのか、時々頭を押さえたり手櫛で梳いたりしている天野雫。彼女は隣に座る二年生の女子バスケ部員と他愛無い会話を楽しんでいるようだった。


 その様子を何の気なしに見ていると、たまたまこちらに向けられた雫の視線とかちあった。すると彼女はたちまちのうちに顔を真っ赤にして、大翔から慌てて視線を逸らせてしまう。


 ――また逸らされた! ……もうダメだ、もうこれ絶対避けられてる……


 家での一件があってから、大翔は雫とまともに喋っていない。遅刻する時間だったので慌ただしかったというのもあるが、どう考えてもそれだけが原因ではない。


 要するに、今雫とはとても気まずい関係なのである。まさに告白した翌日の中学生の男女状態。しかもどちらかと言えば雫が告った側のポジションだ。雫のちょっと恥ずかしい一面を垣間見てしまった。


 ――にしても……雫もあんな声出すんだなぁ……


 初めて聞く声だった。甲高い子犬のような声音。思い出しただけで心臓が高鳴る。胸が苦しくなる。汗が噴き出る。呼気が荒れる。ギンギン。いかんいかんいかんいかん!


 大翔は慌てて首を振ってその思考を振り払った。


 この気まずい雰囲気を打破する一番の方法は、まずは自分が忘れてしまうことだ。あんなこと何でもなかったかのように振る舞い、雫に対して自然に接する。それを心掛けてさえいれば、あとは時間が解決してくれるはずだ。


 まあ、そんな深く考えていなくても、合宿が始まってしまえば知らない間に忘れていることだろう。それほどに、合宿中の練習量は熾烈を極める。ちょっとした悩みなど軽く吹っ飛んでしまう。煩悩を消し去るために滝に打たれるのとほぼ同じ原理だ。


 だから、ひとまず今はそのことを忘れることにした。


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