2-6
雫は加寿美の部屋の椅子に座り、加寿美に借りた櫛で髪を梳いていた。勉強で疲れたためか、ややぼんやりとした表情で、一人、延々とその行為を繰り返していた。
やがてその手をふと止めて、雫は、加寿美の部屋を今一度見回してみた。
窓際に勉強机があるのだが、自分のそれとは違って、加寿美の机は整理整頓が隅々まで行き届いている。
また教科書やノート、参考書など教材の量もかなりのものだ。机のそばにある本棚にある英和辞典、和英辞典も幾度となく使い込まれていて、自分のものと全く同じ本のはずなのに厚さが明らかに変わってしまっている。自分の辞書なんか、未だ新品同然だ。
そしてそれは、加寿美と雫の勉強量の違いを如実に表している。
――私も頑張ってるつもりだったけど、くわちゃんはきっと、私とは比べものにならないくらい勉強してるんだろうなぁ……
加寿美は頭がいいけれど、ただ頭がいいんじゃない。それ相応の努力をしている人だ。バスケにも勉強にも、決して中途半端に妥協しないのが加寿美だった。
そしてそこから視線を動かし、改めて本棚の方に目を向けてみる。
漫画や雑誌がいくつかあるのは雫と変わりないが、一番下の段は丸々料理関係の本で埋め尽くされていた。そのほとんどは市販本であるが、隅の方には加寿美自筆の「レシピノート」が数冊ある。
雫はそのうちの〝その①〟を手に取り、ノートを開いてみた。
そのノートにはジャンル分けされた料理の数々が各ページに書き込まれていた。必要な食材、調理の手順・ポイント、コスト、そして実際に調理し終えた料理の写真が貼られている。そのどれもが抜け目なく美味しそうだった。
「……すごいなぁ」
雫は思わずそう呟いていた。
そのタイミングで、麦茶を入れたコップ二つを乗せたお盆を手に、加寿美が部屋に戻ってきた。「ふぅ、殺した殺した」と、何やら物騒なことを大変愉快そうな顔で呟いている。
だがその後になって、加寿美は雫が「レシピノート」を見ていることに気づき、やや目を丸くしていた。
「あ、ごめん、勝手に見ちゃだめだったかな?」
雫がそう尋ねると、加寿美は、ううん、と首を振る。テーブルの上にお盆を置き、コップの一つを雫に手渡してから、加寿美は勉強机の向かい側にあるベットに腰を下ろした。
「別にいいんだけど……なんか、恥ずかしいわ。私雫と違って字も汚いし」
「そんなことないよ。くわちゃんって、――勉強のノートもそうだけど、すごく書き方が上手だよね。わかりやすいし、見やすいなって、いつも思うの」
この「レシピノート」、また勉強のノート――たとえば数学や物理のノートを加寿美に見せて貰うことがよくあるのだが、加寿美のノートはよくまとめられていて、本当にわかりやすい。加寿美の頭の良さがこのノートを見ただけで本当によくわかるのだ。
「そ、そう? 私はそんなの意識したことないんだけど」
加寿美は照れたように言いながら、麦茶をごくごく飲んだ。それが照れ隠しのようでなんだか可愛かった。