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新谷食堂閉店時間になっても試験範囲網羅とまで行かず、仕方なく加寿美に出そうな問題を教えて貰いながら、ヤマを張ることになった。しかしもう身も心も限界に近く、一握りの知識を詰め込むのも一苦労と言う有様。
「ていうか、テスト前日に全科目やろうとするのがおかしいのよね。普通は何日か前から準備して、前日はそのチェックに当てるのが基本よ? 何のためにテスト休みが一週間もあると思ってんのよ」
加寿美が明日の仕込みを終えてエプロンとバンダナを片しながら、大翔と雫に向かって呆れた顔で言った。
すると二人はそれぞれ、
「ああ、いつもこの時期になってくるとそう思うよ。今度こそ余裕持って勉強しとこうと」
「はは、私は一週間前からずっと勉強してたけどね。で、しててこれなんだよね……はは」
「サボってた飛永はアレだけど、雫はさすがに助けてあげないとかわいそうね」
厳しいことを言いながらも、結局はそんな風に言って見捨てようとはしないのが加寿美だった。
今回の勉強会も、テスト日が迫るにつれ、みるみる生気を失っていた雫を見咎めて、加寿美の方から提案したことだ。
大翔はそれに便乗した形だった。大翔と雫の違いは、危機感を持っているか否か。そしてそれはそのまま勉強量の違いにも繋がる。
しかしそれがまた、雫には痛い話だった。
「これだけ勉強してもひろちゃんと同レベルなんて……私、勉強の才能ないのかなぁ……」
雫は目じりに薄らと涙を浮かべながら、何気にひどいことをさらっと言った後、鼻をぐずっと啜った。
こんなことを言ったら嫌われる恐れがあるので絶対言わないことにしているが、雫の泣き顔を見ると妙に興奮する。たまらなく落ち着かなくなってしまう。どうしよう、誰か助けて。
「バカ、そんなことないわよ」
すかさず加寿美がフォローに回った。雫の頭をそっと撫で、にっこり笑ってみせる。
「努力できるのも才能って言うじゃない。それに、雫は頭悪いわけじゃないと思うよ? 教えたらちゃんと理解するし。ただ、勉強の仕方が悪いのかな。効率が少し悪いっていうか」
「……そう、かな?」
「うん。だから、後期はそこんことからちゃんと教えてあげるから。安心して。バカの上に勉強嫌いの誰かさんよりずっと救いがあるわ」
言いながら、加寿美はじとっと大翔の方を睨んできた。さっきからやけにひどい言われようだ。
「うう、くわちゃん~」
雫はそのまま、加寿美の胸に顔を埋める形で抱き着いた。その瞬間、加寿美の顔がかああっと赤くなり、どうしたらいいのかわからない様子でおろおろしながらも、雫の背中と後頭部に腕を回していた。
こんなことを言ったら嫌われる恐れがあるので絶対言わないことにしているが、雫と加寿美が抱き合っているのを見ると妙に興奮する。たまらなく落ち着かなくなってしまう。自分には変な性癖でもあるのか。誰か助けてくれ。