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しばらくもくもくと問題を解いた後、大翔は顔を上げた。隣では加寿美が雫に向かって熱心に教鞭を振るっていた。
それを横目に、大翔は周囲を見渡す。
今三人がいるのは、新谷加寿美の母親が切り盛りしている『新谷食堂』の中だ。そこの隅のテーブルで大翔と雫が横並びに座り、向かい側に加寿美が腰を下ろしている。
食堂はかなりの年季が入っているようだった。『風見鶏アーケード街』の一角にあるこの食堂は大翔たちの通っている風見鶏高校にほど近く、さらに大翔が現在居候させて貰っている天野雫の家へのちょうど帰り道に店を構えている。
またこの『新谷食堂』の二階が、そのまま加寿美たちの居住区になっているらしい。
ちなみにその一階が食堂と厨房になるわけだが、食堂の方はそれほど大きいわけでもない。広さは学校の教室の半分くらいだ。四人掛けのテーブルが二脚と、二人掛けが二脚、そして厨房と食堂とを隔てるカウンター席が五つほど。
カウンターの端には丁寧に洗われたコップが逆さ向きで重ねられていて、その下方には瓶ビールと瓶コーラと瓶オレンジジュースが冷やされている冷蔵庫がある。
上方に目を向けてみると、所狭しとメニューが掲げられていた。和風洋風を問わない、本当にこんなに作れんの? と思いたくなるほどのバラエティの豊富さだ。焼肉定食、フカヒレスープ、チョコレートパフェ、茶わん蒸し、ボンゴレビアンゴ、等など。
――いや、ほんと何屋なんだよ、ここ。
ちなみに現在時刻は夜の十時頃。絶賛営業中である。
しかしお客さんの姿はない。
ピークはもう過ぎたところだ。店主である新谷の母親も、今は二階で好きな刑事ドラマを見ているところらしい。
と、そんなときに入り口のドアに取り付けられたベルの音がした。