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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第二部 プロローグ
62/119

終わりとはじまりの夏

 今でも覚えている。

 忘れるわけがない。


 ヒーヒーのシーソーゲームの末、劇的な結末を迎えた試合終了後の興奮冷めやらぬ試合会場。打ち鳴らされる惜しみない拍手が社交辞令的な慰めにしか思えず、周りからの視線が痛かった。


 いや、実際のところその中には敵意のようなものも含まれていただろう。ついさっきだって「お前のせいで負けたんだ」と、面と向かって先輩に言われたところだった。


 ――ああ、悔しいなぁ。

 ――もう一回、やり直せないかなぁ。


 溢れ出る涙をタオルで拭いながら、逃げるように試合会場から出て行こうとする。そんな中後ろから舌打ちが聞こえてきた。けれど、自分は聞こえていないふりをした。


 とにかくすぐにでも、人のいないところに行きたかった。これから監督を交えて試合後のミーティング――というのも大げさか。負けたけど、お前らはよく頑張ったぞ。みたいな話し合いをするはずだ。


 でも、今の自分がその場にいる権利はないように思う。

 先輩やみんなのその頑張りを水泡に帰したのは、他でもない自分だ。居ても、余計に辛くなるだけだ。


 ――ああ、どうしよ、トラウマになりそう……。


 夏なのに寒気がする。周りにいる全てが他人で、その大半が泣いている自分を好奇の目で覗き込んでくる。それが恥ずかしくて、たまらなく惨めで、さらに動かす足の速度を早くしようとした――そんなとき。


「俺はあれでよかったと思うよ」


 最初、誰が誰に言ったのかも定かではなかったが、ややあって、自分に言われたのだということだけは理解できた。


 そして声のした方へ振り向く。腫れた目をタオルから少しだけ覗かせ、その声の主を見た。


 許斐(このみ)桜中学のユニホーム、背番号7番。

 その少年は照れくさそうに頬を掻きながら、こちらに背を向けて立っていた。


「……え?」


 ――知らない人だった。


 どう返答すべきか考えあぐねる。

 そんな中、少年はやがて顔だけをこちらに向ける。

 邪念のない、無垢な笑顔。少年は続けた。


「どんなに追いつかれそうでも、攻めの姿勢は崩しちゃだめだ。守りに入ったら逆にそこを付け込まれる。だから、君はあれでよかったんだよ」


 周りの風景が色を失っていく。

 自分と少年だけが真っ白なだだっ広い空間の中にいる。


「俺は、あんな風に強気で攻めていける君が羨ましい」


 目頭が熱をぶり返す。


「もっと自信もって」


 それだけ言うと、少年はそのまま試合会場へと歩いて行った。

 あまりに突然のことで、お礼を言う考えが浮かぶ暇もなかった。ただ人の行きかう中ぽつんと佇んだまま、人知れず頬を紅潮させ、その言葉が頭の中で反響するのに任せていた。



 やがてその少年が自分より一つ年上の人で、風見鶏高校へと進学したことを人づてに聞いた。

 あの言葉を聞いてから一生懸命練習した。そして、その成長した姿を見て欲しいと思った。だから、自分は彼と同じ、風見鶏高校へと進学した。そして、同じバスケ部に入った。


 ――そして、



「次、三対三、ドリブル無しで!」

「「はい!」」

 今はあのときよりずっと近い場所で、彼の背中を追いかけている。


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