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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第六章 少女の願い
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 母である飛永香波と言葉を交わすのは約半年ぶりくらいだった。確か、正月のとき以来。顔合わせとなると、もう一年くらい会っていない。

 そんなわけでその電話に出ることは、少々緊張した。古めかしい正方形に近い電話につながった受話器を手に取り、


「もしもし、母さん?」大翔はできるだけ平静を装った声をかける。


 応答は早かった。


『あ、ヒロ? 元気にしてた?』


「うん、まあ元気だよ。母さんは、元気?」


『うん、元気元気』


 元々口数は少なくて、姉である恵さんに比べたらやや引っ込み思案というか、少し大人し目な人であるけれど、今の香波は少し声が上ずっている気がした。自分と話せるのがうれしいのだろうか。そんなことを思うと、大翔もなんだか嬉しくなった。


『雫ちゃん、今日退院したんだってね』


「うん、今いるよ。代わろうか?」


『ううん。入院中何回もお話したし、それに私雫ちゃんとはメル友なの』


「なんだよ、じゃあ、俺にもメールしてくれたらいいじゃんか」


『あら、いいのかしら。男の子ってそういうの嫌がりそうかと思って』


「いいよ別に。まあ、無理にとは言わないけど」


『ううん、するする。でもメール無視しないでね。私そういうのですぐ傷ついちゃうタイプだから』


「なんだそりゃ」


 最初はぎこちなかったが、他愛無い会話を繰り返すにつれ、少しずつほぐれていった。自然な笑いが出るようになる。軽口が出るようになる。大翔は時間を忘れて、香波と言葉を交わし続けた。


『で、雫ちゃんとはどうなの?』


「ど、どうなのってなんだよっ」


『恵お姉ちゃんが言ってたわよ。ヒロはうちの雫ちゃんにもうメロメロなんだって』


「別にそんなことないから! 恵さんの勘違いだよっ!」


 言いながら、バレてたのか、と大翔は冷や汗を拭った。にしても恵さんは実の母になんてことをぶちまけてくれるのか。


「そう言えばさ、俺今日キャプテンに選ばれたんだ」


『へぇ、すごいじゃない!』


「で、女バスは雫がキャプテンなんだ。さっきまで一緒に練習メニュー考えてた」


『あらあら、仲良しね』


「だからそういうんじゃないからっ」


―――


「ああ、あの猫? 年賀状で見たよ。猫アレルギーの俺がいなくなった途端にここぞとばかりに飼い始めた猫だろ」


『もう、そんな言い方しないでよ。ヒロがいなくなって寂しかったときに捨てられてるのを見つけて、私神様からのプレゼントだと思っちゃってね。名前はロト』


「それってもしかしなくても、ヒロトのロトですか?」


『そう、あの子最近お隣で飼ってる猫ちゃんと仲良くなってね。というかもうメロメロ? 確か名前はシズちゃん。あらあらまあまあ、ロトちゃんがシズちゃんにメロメロかと思ったら、遠く離れた場所で大翔ちゃんも雫ちゃんに――』


「しつこい。切るぞ」


『わわ、冗談ですっ、切らないで!』


―――


『そう言えば恵お姉ちゃんに聞いたけど、また成績下がったんですってね。40人中38番だったっけ?』


「う、だってあのときは総体前で勉強どころじゃなかったんだよ」


『それは他の子たちも一緒でしょう。雫ちゃんだって頑張って……35番とってるじゃない』


「頑張ってその成績って結構まずいと思うけど」


『そういうことは雫ちゃんに勝ってからいいなさい。……でもまあ、雫ちゃんにももうちょっと頑張って欲しいわね』


 ちなみに同じ二年三組のバスケ部のメンツで言えば、修は40番で加寿美は3番だった。

 そんな感じに、大翔は母親香波とのたわいのない会話を続けていた。


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