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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第六章 少女の願い
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 本日の雫の退院祝い&先輩方との送別会らしきものは日が落ちてからも場所を変えて続行され、雫を自転車の後ろに乗せて天野家に帰宅したのは夜の八時ごろだった。


 今頃先輩方は、三年生だけの水入らずで楽しんでいることだろう。今回のサプライズ送別会はほんの思い付きのようなもので、ちゃんとしたものは先輩方が卒業する頃に改めて行う予定だ。


 そんな中、大翔と雫はある作業に追われていた。二人は雫の部屋で、可愛らしい四脚のテーブルで向い合せに腰を下ろし、白い紙に向かってうんうん唸っている。大翔は鉛筆を手の中でくるくると回しながら、


「やっぱりまずは個々の基礎体力をつけなきゃな。うちは割かしスタミナある奴が揃ってるけど、人数が人数だし」


「そうだねー、じゃあ、ツーメンとスリーメンの量もっと増やそっか」


「あと『地獄峠』も毎朝一本いっとくか」


「う、うう、私あれ嫌いだなぁ」


「そっか、じゃあやめよう」


「え、ええ⁉ そんなんダメだよ! もう、ひろちゃん私が嫌いっていったらすぐメニューから消そうとするんだから!」


 そんなバカらしい会話を繰り広げていたが、これでもれっきとした新キャプテン同士のミーティングである。

 内容は明日から始動する風高バスケ部の練習メニューについて。花都監督から自分たちで練習メニューを考えてみるように言われたのだ。


 そこでやはり問題としてのしかかってくるのが部員数だった。特に男子は、三年生が抜けるまでは19人もいたが、新チームは木ノ葉と百合ヶ丘を入れてもたったの9人しかいない。9人では今までなら当たり前のようにできていた旧来の練習メニューでは行えないものも当然出てくる。


 例えば5対5。練習の最後に大体二回くらい紅白戦のようなものを締めとして行うのが常だったのだが、これからはそれもできない。練習メニューの再考は必須事項だった。


「うーん、でも木ノ葉先輩と百合ヶ丘先輩は練習に出てこれる曜日が限られてるんだよな。7人と9人じゃやれること変わってくるし、二通りの練習メニュー作っといた方がいいのかな」


「どうしても5対5とかしたいときは言ってね。私で良かったら入ってあげるから」


「ホントか? 悪い。助かるよ。でも練習に付け込んで不埒なことしてくる奴がいたらすぐ言えよ。俺が厳正に対処する」


「あはは、りょーかい」


 そんな感じで、大体夜の九時になる頃には練習メニューは固まっていた。

 大翔は一息ついてそばの壁に背を預ける。雫は棚の上に置かれていた水槽の前に立ち、ザリーと言う名前らしいザリガニに向かって、勿体ないくらいの可愛い笑顔を送っていた。


「ザリー、会えなく寂しかったよ~。もうずっとそばにいるからね~」


 そんな言葉を貰っているザリーに嫉妬心を抱いてしまった大翔はとてつもない自己嫌悪に陥った。まさかザリガニにやきもちを焼く日が来ようとは。甲殻類、恐るべし。


 それから大翔は、何気なく雫の部屋を見渡してみた。

 女の子らしい小物類で埋め尽くされた勉強机。その隣の本棚には、自分とお金を出しあって揃えた漫画や小説、雑誌、魚図鑑、昆虫図鑑、思い出の閉じ込められた写真アルバムが置かれている。


 壁に取り付けられたホックには風見鶏高校の制服があり、背番号12番の風高バスケ部のユニホームがある。これからは雫はキャプテンナンバーである4番をつけることになるはずだが、新チームで次にこの番号を背負うことになるのは一体誰だろうか。


 ちなみに大翔が今まで背負っていた番号は16番だった。人数的に、新チームではそこは欠番になるはずだ。


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