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やがて長内父は駐車場の隅の方に車を止めた。
大翔たちはそれぞれ自分自身のエナメルバックを肩に担ぎ、お礼を言いつつ車を降りて、試合会場の入り口へと向かっていく。
風は無い。上空から照りつける太陽光が煩わしい。自分が選んだのが室内競技でホントに良かった、と心の中で思った。この炎天下で日差しのもと、外で走り回れる他のスポーツの選手たちが不思議で仕方がない。もちろん中は中で熱気が籠り、蒸し暑さを感じたりはするが、会場に入って日差しが遮られた瞬間嘘のように暑さが引いたので、やっぱり室内競技は偉大だと一人勝手に確信した。
「くぁー、マジでバスケが室内競技でよかったー」
そんな修の声が大翔の背後で上がる。どうやら一人じゃなかった。
大翔がこの会場に来るのは、ちょうど数えるのに両手が必要となるくらいの回数だ。
大翔たち四人は入口すぐの左手にあった階段を昇り、慣れた感じで二階に上がる。すると一階二階が吹き抜けとなった体育館のスタンドに出た。
各々のチームはこのスタンドの一部分を借りて、そこで休憩を取ったり昼食を取ったり他のチームの試合を観戦したりする。
そして一応、その日自分たちが試合を行うコートの傍に、そのテリトリーを築くのが暗黙の了解であり、やはり、それに当たるBコートの傍の観客席に、大翔たちの後輩である一年生たちは己が陣を構えていた。
「あ、こんちわっす!」
後輩たちが大翔たちに気づき、口々に挨拶した。全員で三人。これで風見鶏高校男子チームの一年生全員だ。
そんな中、三年生である先輩の姿もあった。後輩たちの挨拶に軽く手を上げたり、腹をつついたりというよくわからないスキンシップを交わしつつ、今度は大翔たちが、
「こんちわっす」
「おう」
いたのは風見鶏高校男子チームのキャプテン、木ノ葉之平先輩だ。身長182センチで風見鶏では上から二番目。風見鶏の点取り屋で主力中の主力である。
「三宅先輩たちはまだッスか?」
大翔は木ノ葉の斜め後ろの席に座りつつ、尋ねた。
「アイツはまだ。的場は一緒に来たけど今便所」と木ノ葉。
「ふはっ、早速ですか」
「あの気の小ささはどうにかならんのかな」
木ノ葉はどこか遠い目でぼやく。
的場も木ノ葉と同じ三年生。実力は県ベスト4入りのこの風見鶏で文句なしにスタメンを張るほどだが、いかんせん気が弱い。試合の日は八割腹を下す。でもどんなに試合前に参っても、実際試合が始まれば神がかった働きをしてみせるので、誰も的場のことを心配したりはしない。「ああまたか」と言う呆れ交じりのため息とともに、笑い話になるだけだ。
大翔は体育館のステージ側に取り付けられた時計に目をやった。
八時二十五分。
第一試合の開始時間――つまり雫たち女子チームの試合開始時間は九時だ。
それに合わせて、コートに設置されているタイマーは、残り三十五分二十三秒を示している。あの数字が零になるころにあの時計は九時を差し、徳島県大会女子準決勝が幕を開ける。
ちなみに大翔たちの試合開始はその後、大体十時頃からとなる。
女子準決勝→男子準決勝→女子三決&決勝→男子三決&決勝、という試合運びとなる予定だ。この会場には二つのコート(AコートとBコート)があるので、二試合が同時並行で行われる。
そして、言わずもがななことであるが、やはり男女ともに、決勝戦の盛り上がりは他とは一線違ったものとなる。特に今年の女子は、どこが勝ち上がってもおかしくないので、その盛り上がりようは近年稀に見る凄まじいものになるかもしれない。
バスケットボールは他の競技に比べれば、割かし実力通りの結果が出やすい競技だ。
一発逆転満塁ホームランはなく、一点一点の積み重ねが物を言う。点差を縮めていく間にも、刻一刻と時間は過ぎる。だから余程のことが無い限りは、下馬評通りの結果となる。本当に強いチームが勝ち、それに至らないチームが負ける。ある意味シビアな競技だったりするのだ。
一年通してベスト4のチームの顔ぶれが同じだということもザラだ。
そして此度の大会でも、ダークホースなるものは出ず、男女ともに春の大会と同じ顔触れとなっていた。