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三日前の県大会準決勝の試合中に、天野雫は発作を起こして病院へと運ばれた。
そして驚くべきことに、その病気の発症の恐れは、試合前から事前にわかっていたことだった。しかし雫は何としても全国への道を切り開くために、その病気を隠して試合に臨んだらしい。
その話を聞いただけでも胸に熱いものが込み上げてきたが、胸にぐさりと突き刺さったのは、その先だ。
何でも、試合中に倒れてしまい、そのせいでチームメイトに迷惑をかけた、大翔に余計な動揺を与えて試合に集中できなくさせてしまったと、思いつめているようなのだ。大翔は雫の病気自体よりも、むしろ精神面の方が心配なのだと言う。
「お前らは一体なんなんだ。なんでもかんでも自分のせいだと思い込んで……」
木ノ葉はため息交じりにそう零す。別に嘲笑っているわけではなく、少し呆れていた。お人好しにもほどがある。
木ノ葉は部室の隅に転がっていた使い古されたバスケットボールを手に取る。すっかり空気が抜けていて、メーカーのロゴが剥がれ落ちていた。それをくるくると人差し指の上で回す。
「天野もお前もスタメンだろ。しかも他に換えの効かない、重要な選手だ。お前がいなけりゃうちは準々辺りで負けてたかもしれないし、多分天野がいなけりゃ、女子チームもそうだったんじゃないか」
「雫はともかく、俺はそんなんじゃないと思いますけど」
大翔はそう言ったきり、俯いてしまった。
またか、と木ノ葉は回していたボールを両手で受け止める。折角いい雰囲気だったのに、またしても卑屈モードだ。木ノ葉は脳内でかけるべき言葉を探してみる。それでもこれだと言うものが閃かない。この男は一体どう説明すれば、自分たちの思いをくみ取ってくれるのか。考えて、考えて考えて、考えに考えた末、
「もう……なんか……」
「え?」
大翔が顔を上げてこちらを向く。木ノ葉はほとんど投げやりにただ一言。
「お前ら、もう面倒くせぇよ」
「ええっ⁉」
なんかもっとこう優しい言葉でも期待していたのか、大翔は信じられないと言うような顔で素っ頓狂な声をあげた。でも、ぶっちゃけた話、それが正直な感想だ。
――こいつら、面倒くせぇ。
でもそこが、いじらしく可愛いとも思うのだった。
「わかった」
木ノ葉は立ち上がった。茫然としたままの大翔の顔を見降ろし、
「色々手伝うって言ったしな。大丈夫だ。少し考えがある」
「考え?」
「ああ。と言ってもそんな上等なもんじゃないけどな」
木ノ葉は言いながら、換えのTシャツに袖を通す。大翔はその換えを持って来ていないらしいので、予備に持ってきておいたもう一枚を貸してやる。
「お前はあの子が退院するまでの間、何とか元気づけてやってくれ。その後のことは、俺たちに任せろ」
木ノ葉は、風見鶏高校男子バスケ部キャプテンとしての、最後の役割を果たすことにする。