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今日大翔たちが臨むのは県大会の準決勝だ。それに勝てばさらに決勝があり、負けたとしても三位決定戦が待ち受けている。
そして今日の準決勝で当たる相手は、春に徳島を制した雑賀東高校。
今年はこの雑賀東の一強だと言われ、全国へと駒を進めるのは間違いなくこのチームだとも言われていた。
この度四強に残った残りの矢継早農業高校、月見酒高校、そして大翔たち風見鶏高校も、ここまで勝ち進んできただけあって底力のあるいいチーム揃いだが、それでも雑賀東を前にしてはその実力も霞んでしまう。前回大会――春の大会の決勝戦で、雑賀東は月見酒高校に三十点以上の点差をつけて大勝した。他のチームの誰もが心の奥底では、全国への道を半ば諦めてしまっていた。
しかし、今大会は少し事情が違った。
雑賀東の主力の一人が怪我をしてしまったのだ。
その怪我により、その選手は今大会での試合出場はもう無いとされている。これは大翔たちにとって、絶望色の闇に降り注いだ一片の希望の光だった。
「あ、女子がアップしてる」
その声の主である修の視線の先を追ってみると、会場の傍の広場でお揃いの練習着を着た、とある女子チームが試合前のウォーミングアップをしていた。
で、そのとある女子チームというのが、大翔たちと同じ風見鶏高校の女子チームだったりする。
「雫ちゃんもいるぜ。おい大翔、なんか言ってやれよ」
「え、な、なんで俺が」
不意に大翔へと視線が集まる。全員がニタっという悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「みなまで言わす気か。これから試合なんだから一言くらい――」
「いーや、絶対ヤダ」
「つまんねー」
風見鶏女子も大翔たち男子チーム同様、準決勝まで上り詰めてきていた。
しかも彼女らには決勝へと勝ち進める可能性も、少なくとも男子よりは十分にある。恐らくモチベーションもかなり高いはずである。
「いいじゃないか、そっとしといてやれ。どうせここに来る前に家でいろいろやってきたに決まってんだ。コイツはおぼこっぽく見えて、やるべきことはやってんの」
言われ、大翔は目を白黒させる。声が人知れず上擦る。
「な、なななな何言ってんだよ、あいつは俺の従妹だぞ!」
「おやおやぁ大翔さん、お顔が赤いですぞ?」
「こ、これは暑いからだよ! すんません修のお父様! 恐縮ながらクーラーをつけて頂いてもよろしいでしょうか!」
そうやって頼んでみるけれど、肝心の修の父親は、ニタニタと粘っこい笑みを浮かべているだけだった。
もうなんか色々と筒抜けになっているご様子。
大翔はなるべく雫――天野雫たち女子チームのいる方に視線を向けないようにした。