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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第二章 心の天気
20/119

19

「……ふぅ」


 雫の部屋は、大翔の部屋の隣だ。

 その部屋の扉には可愛らしい丸文字で「しずく」と書かれたプレートがかかっていて、それを開いた先には、大翔の部屋とは違う、艶やかな色に満ちた空間が広がっていた。


 まず目を引くのは、棚の上に置かれている小さな水槽。そこには色鮮やかな熱帯魚が優雅に身を躍らせている。


 そしてさらにその隣に置かれている別の水槽内にいるのは――まさかのザリガニ。

 それら少し特徴のある趣味的なものを除けば、普通の女の子らしい部屋だ。

 雫の入院している間を任されている魚たちへのえさやりを終え、大翔は問題の作業に移る。


 ――着替えって、まさか下着は含まれてないよな?


 それは恵に頼まれたときに真っ先に浮かんだ疑問だったが、どうしても聞き返せなかった。それでもし、「全然含まれるよ~」とか言われた困ってしまうから。


 大翔は雫の押し入れを開いていくらか服を引っ張り出す。その瞬間に雫の香りがほんわりと舞い込んできて、頭が爆発しそうになった。一人バカみたいに顔を真っ赤にしながら、それでも動きやすそうな服をちゃんと選んで他をしまう。見繕ったそれらを胸に抱いてそそくさと部屋を出ようとする。

 そんな折、


「…………あ」


 壁に留められたコルク板のプレート。

 そこにピンで留められている、幾枚かの写真が視界に入る。


 ――天野家全員と大翔を含む、去年行った九州旅行での写真。

 ――風高女子バスケ部全員で撮ったらしい、笑い声がこちらにまで聞こえてきそうな実に楽しそうな写真。


 他にも雫の釣り上げた大きな黒鯛と撮った写真や、学校の友達と撮った写真、近所のじじばばと撮った写真、近所の幼子たちと撮った写真、生まれたての子犬と撮った写真――それら幾枚もの雫の笑顔が写る写真は、そのどれもが見ていて微笑ましくなる温かな写真ばかりだが。


 その中に一枚だけ、その場には不釣り合いな写真があった。

 優しい笑顔でこちらを見ている雫と、その隣で沈んだ表情を浮かべている――大翔。

 三年前――大翔がこの家にやってきた直後にとられた写真だろう。


「…………」


 大翔はそれを、覆い隠したい気分になった。

 雫はいったい、どういう思いでこの写真をここに飾っているのだろう。

 このときの自分は雫に対して、決して良いと言えない態度を取り続け、雫を困らせ、悩ませていただろうに。


 雫は、どうしてこの写真を破り棄てようとはしないのだろう。

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