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これはまずい。
大翔たちは再び喧騒漏れ響く会場から外に出て、疲れない程度に体を冷やさない程度に各々体を動かしていた。木ノ葉は基本放任主義だ。でも責任感が無いからだとか単に面倒臭がりからだとか、そんなふざけた理由でまとめるべきチームメイトを放置しているわけではなく、その選手それぞれに合った事前準備というか戦闘態勢への転換というか、そういうのはチームメイトを信頼して自己管理に任せているのだった。
ボールを使ってパス回しをしている者もいれば、その場でもも上げを連打している者、入念にストレッチを行っている者、何やら腰をくねらせて不思議な舞をしている百合ヶ丘、チームメイトとフォーメーションやマッチアップの相手を確認している者、応援に来てくれた家族や学校の友達に勝利を誓う者。それぞれ違いはあれどそのどれもが意気揚々としていて、目前に迫る決戦を前に着々と準備を進めていた。そんな中、
これはまずい。
大翔は胸に手を当てる。
雫に声をかけたのは間違いだったかもしれない。
自分の手に残るぬくもりはまだ一切として消え失せることはなく、むしろ刻み込むように熱を残している状態だ。自分の右手の甲に左手を重ねてみる。そこに確かな活力の源泉を感じる。あのとき力を貰ったのはもしかしたら自分の方で、吸い取られてしまったのは雫の方だったのかもしれない。
これはまずい。
昔からそうだった。
自分は意気込み過ぎると大抵ろくなことにならない。適度に力を抜いて、失敗したときのことなんかは絶対考えないようにして、適当にやってしまった方がなんだかんだで上手くいくのが常だった。それを知ってからは楽観的になれるように努力してきたし、その生き様が板についてきたようでもあった。
だがしかし。
あれは防ぎようがなかったように思う。
雫は少し天然でずれているところもあって、そこがまあ可愛いんだけど、でもだからこそ、予想もつかないような行動を突然とるようなことがある。でもここ数年間のほとんどを共に過ごしている自分は、雫のことをある程度理解しているつもりだった。
それでもわからなかった。
突然手を握られるなんて思ってもみなかった。
雫にとっては何気ないおまじないか何かのつもりだったのだろうけど、それは彼女が思ってる以上に、大翔にとっては途方もない衝撃的なことだった。鼓動は収まることを知らないし、体が途方もなく熱い。莫大なエネルギーが体内で生成されているような気がする。それは単純に考えれば試合を前にして都合のいいことのように思えるが、大翔はそのエネルギーの上手い放出の仕方を知らない。このままでは全力で空回りしてしまい、とんでもないミスを連発してしまう恐れがあった。
これはまずい。
だから大翔は、
「ああああああああああっ!」
――音エネルギーに転換してみました。
すると道行く人々は例外なく、響き渡る奇声に驚いて足を止めた。
「なんだなんだ」「なに今の」「……アレやばくない?」「どしたのあいつ」
不審者を見るような目が一斉に自分に降りかかった。
「……お前大丈夫?」
たまたま傍にいた修が大翔の顔を覗き込みつつ、そう尋ねる。すると大翔は鼻息荒げて意気揚々と、
「お、おう。今のでだいぶマシになった気がする!」
「なんかよくわかんないけど。そっか、ならよかった」
なんかよくわからないけれど、修の目はドン引きだった。