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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第一章 笑顔の法則
112/119

3-4

 バカみたいに出された夏休みの宿題もやっと終わりが見えてきた。国語、英語、物理、化学はすでに終わり、あとは得意の数学のテキスト数ページと、世界史のレポートを残すだけだ。


 なんならそれらも今日中に終わらせてやろうという心づもりだったのが、残念ながら、今はまともに勉強に集中できる気がしない。今日はもう終わりとばかりにペンを放り出し、ベッドに倒れ込む。


 それからのそのそと再び机の側に這いより、手を伸ばして一枚のプリントを掴むと、ごろんと仰向けになって天井を仰いだ。ぽつりと独りごちる。


「なんで……私なんだろ」


 徳島県代表の選抜メンバー表、そこに書かれた自分の名前――13番新谷加寿美の名をぼーっと見つめた。


 選ばれたことは光栄だ。


 元々若干自信家なところもあるし、他に選ばれている選手たちの中で自分が特に浮いているとも思わない。


 もし試合に出して貰えれば、結果を残してみせる自信もある。そう思えるだけの努力と実績は積み重ねてきた。


 ただ、それでも一つ腑に落ちないことがあった。

 それは、ここに天野雫の名前がないことだ。


 雫は優秀な選手だ。それはけして身内びいきなんかではない。そりゃあ彼女のことは大好きだけれども、それを差っ引いても、雫の実力は同世代の中ではトップレベルにあると思う。


 背は小さいが、緩急を上手くつけたドリブル突破と、そこから流れるように撃ち込まれる正確無比なジャンプショットは見事だ。


 ごく基本的な攻め手だが、だからこそあらゆる場面で使えるプレーであり、その得点がじわじわと積み重なって、終わってみれば総得点三十点なんてのもザラだ。


 一試合で、一人で三十点も取れれば、大概のチームではエースを張れる。

 そんな雫がなぜ代表に選ばれていないのか。

 加寿美は当然、花都先生に尋ねた。


 すると彼女も納得いっていない様子で、こう語ってくれた。


『どうやら、総体で試合中に倒れ、救急車で運ばれたことに関係してるみたいです。今回の大会でも同じようなことがあっては困ると。なんたってテレビ中継されますからね。もう手術は済ませ、何も問題ないと何度も申し立てたんですが、主催者側は聞きいれてくれませんでした』


 ふざけた話だ、と思う。まあ色々大人の事情があるのだろうとは思うが、それにしたってひどい話だ。


 でも今更どうにもならないだろう。花都先生があの手この手を尽くして何とか許しを貰おうとしたのだろうことは伝わってきた。自分にできることなんてもう何もない。


 唯一の救いは、そのことに雫が心を痛めていなかったことだ。

 いや、もしかしたら自分に対してそれを見せないようにしているだけで、内心は傷ついているのかもしれないが。


 少なくとも、その決定を聞いたとき、雫は自身のことは何も言わず、ただ加寿美が代表に選ばれたことを純粋に祝福してくれた。


 そう言うところも、すごいなと思う。もし逆の立場だったなら、自分は笑って雫のことを祝福することができただろうか。


 本当の雫相手なら、きっとそうすることもできただろう。でも、例えば自分が理不尽な理由で代表入りを拒まれ、そんな中、自分よりもはるかに劣る選手が選ばれたなら――。


 きっと自分は、その選手――新谷加寿美の代表入りを純粋に祝福することはできなかったはずだ。


「はぁ……私、いやな子だなぁ……」


 メンバー表をその辺にぽいして、布団にうつ伏せになって項垂(うなだ)れる。練習やら、家業の食堂の手伝いやら、勉強やらで疲れているはずなのに、なぜか当分寝付けそうになかった。

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