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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第四章 rack&pinion
101/119

2-39

「今日、白峰先輩呪われてないッスか?」


 彪流の言葉に、大翔は頷いた。


「確かに。チャンスメイクはちゃんとできてるのに、さっきからシュート入る気配ねぇな」


 そんな話をしている中、再び風高に攻撃権が移る。紡がドリブルで相手ゴールに向かっていた。そしてボールは修へ。その最中に残り三人は縦横無尽に動き回ってチャンスを作り出そうとする。


 次にボールを持ったのは木ノ葉だった。逆サイドに紡が走る。入れ替わりで上がってきた白峰が、紡を盾に使ったピックアンドロールでマークマンを振り切った。絶妙のタイミングだ。


 白峰は木ノ葉以上の、純正のシューターである。ことアウトサイドでのシュートチャンスを作り出す技術に関しては木ノ葉にも引けをとらない。


 しかし、シューターというものは、難儀なポジションだ。どんなに見事なチャンスを幾度となく作り出せても、そのシュートを決められなければ何の意味もない。


 白峰はシュートを放った。モーションはきれいだが、残念ながらそのシュートは外れた。白峰は悔しそうに歯噛みしている。


「外せば外すほど、次は決めなきゃって重圧になるからな。悪循環だよ。普通ならここまで調子悪けりゃいったん別の選手と交代させるもんなんだけど」


 小声で言いつつ、大翔と彪流はちらりと花都先生の方を見た。

 そのタイミングで花都先生もこちらの方に目を向けた。


「飛永くん、彪流くん。交代の準備をしてください」


「はい」


 来たか、と内心で呟いた。


 恐らく交代させるのは白峰と――――紡と修のどちらかだろう。しかし紡はやっと調子が出てきたところのようだし、ここで交代させるのは少し違う気がする。


 しかし修は修でゲームメーカーのポイントガードだ。そんなにコロコロと交替させていいポジションの選手ではない。


 果たして――


「彪流くんは百合ヶ丘くんと交代です。積極的にポストプレイしてください。飛永くんは木ノ葉くんと交代。長内くんのフォローと、相手チームの六番のディフェンスをお願いします。彼、第二クォーター開始から当たり始めてますから」


 当たり始めている――要するに調子を上げて来ているということだ。確かに相手のゼッケン六番はさっきからスリーポイントを幾本か決めている。この辺でディフェンスに長けた大翔をぶつけて、調子を崩してしまおうというのが花都先生の狙いらしい。


 しかし。


「木ノ葉先輩と交代……ですか?」


 大翔は準備運動しながら尋ねた。


 今うちが超歩危高校に勝てているのは、どう考えても木ノ葉と百合ヶ丘がいるからだ。その二人を一気に交代させてしまうなんて、自ら勝率を下げるような行為である。


 それはもちろん花都先生自身もわかっているのだろう。彼女は大翔の方を見ずに告げた。


「試合前に言ったはずですよ。今日は勝敗は問わないと」


「でも、勝つにこしたことはないでしょう。わざわざ負けるリスクをとらなくても」


 練習試合とはいえ、ちゃんとした試合形式には則っている。それで正式に負けてしまうのは、けして気分のいいものではない。可能な限り勝ちたいと思うのは当然だろう。


 しかし花都先生は、こう言った。


「練習試合は、勝ち星を稼ぐためにやるものじゃありません。来たる公式戦での勝率を一パーセントでもあげるために、地道に積み上げていくものです。たとえ負けても、それがその先の試合での勝利の布石であれば、それでいいんです」


 先生は、大翔の方に目をやった。


「今はまだ、この新チームの最高の形を探っている最中です。そしてそれは幾度も試合を重ねないとどれが一番いいのかなんて、誰にもわかりません」


 先生は言葉を切り、試合を行っている選手たちの方へ視線を戻した。


「でも、これだけははっきりと言えます。三年生の木ノ葉くんと百合ヶ丘くんの二人だけに頼ってしまうようなチームでは、決して上には上がれません」


 言われ、大翔はハッとした。

 二人がいればなんとかなる。確かにそんな甘い考えもあっただろう。しかしそれではダメなのだ。


「飛永くんは合宿中、自主練の時間によくシュート練習をしてましたね」


「あ、はい」


 先生に尋ねられ、大翔は頷いた。


「私は、飛永くんにはもうワンランク上の選手になってもらいたいと思っています」


「え?」


「守備だけでなく、攻撃の方でも期待しているということです」


 そこで審判の笛が鳴った。

 選手交代だ。花都先生は大翔と彪流の肩を元気づけるように叩いた。


「言っておきますけど、私はこの交代で勝ちが遠ざかるなんて思っていませんよ? 飛永くんも彪流くんも、自信もってやってください」


「「はい!」」


 そして二人はコートに入る。渦巻く熱意が体の奥底から湧き上がっていた。


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