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Run&Gun&  作者: 楽土 毅
第四章 rack&pinion
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2-38

   ※


 大翔はベンチスタートだった。

 無理もない。たとえどんなにディフェンスが優れていようとも、それだけでスタメンに選ばれるほどバスケは甘くない。


 バスケは総合力がものを言うスポーツだ。もちろんポジションによって求められるパラメーターにバラつきはあるが、それでもその全てに一定規準以上の実力は必要とされる。


 ディフェンスに特化したタイプの大翔は、本来スタメン向きの選手ではないのだ。


 とはいえ、相手が雑賀東高校のような、毎試合三十点以上をコンスタントに取ってしまうような規格外の攻撃的な選手がいる場合、話はまったく別である。


 その場合は、その選手をちゃんと抑えられる、規格外の守備的な選手が必要とされるのだ。あるいは雑賀東相当以上の攻撃力があれば、点取り合戦に持ち込むのもありかもしれないが、風見鶏高校にそれだけの火力はない。


 だが幸い、今の対戦相手である超歩危(ちょうぼけ)高校には、そんな規格外の選手はいなさそうである。前大会は県ベスト8。十分強いチームだが、貴重な攻撃戦力を削ってまで大翔を投入する必要はない。花都はそう判断したのだろう。大翔自身にも異論はなかった。


 それよりも目の前の試合である。

 チームメイトが戦っているのだ。集中しないと。大翔は心の中で頷いた。


 現在、第二クォーター開始から三分経過したところである。

 スコアは風高23――超歩危高校14。

 こちらの得点は木ノ葉が9得点、百合ヶ丘が12得点、修が2得点だ。


 立ち上がりは悪くない。五人とも動きは良い感じだ。しかし何というか、先ほどから惜しいプレーが多すぎる。


 そんなことを思った矢先である。修が、ゴール付近で場所とりしている百合ヶ丘にボールを入れた。百合ヶ丘はそこでワンドリブル。その最中(さなか)に逆サイドでマークマンを振り切った紡に鮮やかなノールックパスを出した。


 紡は素早いドリブルでゴールへまっしぐらだ。しかし追いすがるディフェンダーに後ろからボールを(はた)かれそうになる。


 もうジャンプはしてしまった。このまま着地はできない。

 どこかにパスを出すか、叩かれるのを覚悟でシュートに行くか。紡の頭の中でそんな問答がなされていることだろう。


 しかし考えている暇などない。一秒もだ。こういう場でものをいうのは、ひとえに経験値だ。

 彼の判断は的確だった。


 シュートに行く素振りでディフェンダーを跳ばせ、しかし実際にはシュートせずもう一度ボールを持ち直す。軽やかな体さばきと、両足を横に開くことで滞空時間を稼ぎ、跳ばせたディフェンダーが降下に入るタイミングで再びシュートモーションに移行する。


 そう、これはいわゆる。


「ダブルクラッチ……」


 大翔の口から思わず漏れた。

 リングを通り越してのバックシュートになってしまったが、彼のシュートは吸い込まれるようにリングに収まった。見事という他ない。


「うっしゃ――っ! ナイショ――っ! いいぞ紡――っ!」


 隣に座っている彪流(たける)が大きな声で声援を飛ばした。そんな彪流に大翔は話しかける。


「でもやっとだな。これで少し持ち直すといいんだけど」


「さっきからシュート落としまくってるッスからねぇ~、紡のやつ。動きはもう文句なくキレッキレなのに」


「疲れが溜まってんだろうな。紡はスタミナもある方だけど、疲労の蓄積は無視できない。ここぞというとこでのシュートの精度が少し落ちてるんだ」


 先ほどのシュートが紡にとっての今試合初得点だが、彼はそれまでに六本のシュートを放っていた。スリーポイントシュート二本と、ミドルシュート四本。スリーはともかく、ミドルは普段の紡ならまず外さないはずの距離だった。


 約一週間かけての合宿の疲労が、紡の足かせとなっているのだ。


 シュートというのは、その日のコンディションにとても左右されやすい。ドリブル、パス、ディフェンスなどは多少調子が悪くても、しっかりとした実力を身に着けていればある程度の力は常時発揮できる。


 しかしシュートはまったく別だ。どんなに練習を積み重ね、確固としたシュート精度を会得したとしても、ある試合で突然シュートが入らなくなってしまうことがままある。それはどんなに優れたシューターでも例外なく起こり得ることだ。


 そしてそんな、思うようなシュートを撃てなくなる状況に陥ることを、バスケット選手は俗に『呪われている』という。


「まあ紡もッスけど。それよりも……」


 試合を見ながら、彪流は小声で尋ねてきた。


「今日、白峰先輩呪われてないッスか?」

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