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9月の恋と出会ったら  作者: 佐伯龍之介
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その後の生活

ヒロタの正体を知らなくてはいけない。しまさんとはなしたあと、僕は前以上にそう思った。

 手掛かりは多くない。九月までに(オリジナルの旧バージョンでは、僕にそれ以降の未来はないのだから)僕と知り合っている人。たとえ長くも深くもないつきあいにせよ、僕のことを知っている人。

 僕の居なくなった後に、たぶん僕に対する感傷から『シーガイアシャイン』二階のB号室に入居した人。僕の居た部屋で僕のことをおもってくれ、もしかしたらその思いの強さによって、奇跡を起こした人。

 けれども、自分の知り合いを総ざらえしてみても、そこまで僕のことを思っていてくれそうな人など思いつかない。それだけではなく、ヒロタの声に該当する人もいない。

 古い知り合い・・・その間に声が変わってしまうくらい昔の知り合いだろうか?それとも日ごろ顔を合わせることはあるけれど声を聞く機会が無いような人?

 僕には、ヒロタの声に心当たりがない。だとすると、やっぱりうんと昔の知り合いか、一方的に僕の事を知ってくれている人なのだろうか?

 それから数日後、まためぐってきた休日のある日のこと。

 ここしばらくの仕事がない人変わりなく何をするわけでもなく無気力に過ごし、夜になってメールをチェックしていた時、ふと手が止まった。

『お誕生日おめでとう』

 午前中に届いたメールの件名。差出人は『????』となっていた。そして、それまで忘れていたのだけれども、たしかにその日が僕の誕生日だった。気づかないうちに、二十八を迎えていたのだ。

 少し迷ったが、開いてみると本文は何もない、空っぽのメールだった。

 知り合いの誰かが、僕を驚かそうとしたというより(みんなそれほど暇ではないはず)、どこからか自動的に送られてきたものだろう。通信販売か何かのサイトで、この手の質問に答えたことがある。(最近は、個人情報に関係で、答えるのを控えているけど)

 ただ、それだけのこと。けれど、本当なら今年の誕生日、二十八という年齢にたどりつくことすらできていなかった。

 でも、それは本当だろうか?僕が二十七で死んでしまったもう一つの現実・・・なんてものが本当にあったのだろうか。何もかも、すべて城田さんが言っていることだけではないか。

 実際に起こったことと言えば、ヒロタと名乗る誰だかわからない人物が、壁にあいたエアコンの穴を通じて未来から話しかけてきたこと(この点に関しては証拠がある)

 自分が未来の城田さんで、A号室の壁の穴から話しかけていると言いながら、現在の白田さんとは決して離さず、声の聴こえる範囲にすら近づかないよう、うるさいほど念を押したこと。その上で『白田さんを尾行する』というミッションを僕に与え、三度目の九月二十九日が『山場』だと言った事。

 そしてその二十九日、帰宅すると空き巣に入られていて警察の人から「特に水曜日に近所で活動している犯人のしわざ」と言われたこと。

 そしてA号室のベランダにはエアコンがついていて、初めてまともに話した城田さんの声は、ひろたとにてもにつかないものだったこと。その晩、ヒロタの声は聞こえず、それ以来、なんの音沙汰もないこと。



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