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9月の恋と出会ったら  作者: 佐伯龍之介
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現在の城田さん③

 城田さんは大きく息を吸う。怒り出すところだったのだと思う。

けれども途中で息を止め、うつむいて吐きだし、上目づかいに僕を見ながら、

「もしかしたらあなたは、私が少々変わったことをするのを見たかもしれない」ゆっくりゆっくりと言った。「先々週なり、先週なりに。あなたが私を尾行するなどという、まともじゃない真似を本当にやったなら。けれども、何を見たにしろあなたに関係ないし、別に悪いことでもない。説明する必要などさらさらないことです。

 少なくともここで、あなたには。訳の分からない誰かの話にひき図られて、または、自分の妄想で、無関係な他人を尾行するような、そういう非常識な人には」

 もっと別の言葉を思いついて辞めたのだろうということは、なんとなく想像がついた。

「あの声は城田さんじゃなかった。それはわかります」僕も開き直っていった。「今となっては。声の質も違うし、ほかのことも。だけどあの時は城田さんと話したこともなかったし。

 とにかく謝ります。ごめんなさい。けれどもあの声が未来から聞こえてきたこと、それだけは間違いないんです」

 何か手立てはないのだろうか。城田さんに分かってもらう、ヒロタが未来の存在だということだけでも信じてもらう手立ては。

 そんなものあるはずが・・・いや、ある。

「ちょっと待っていてください」

僕は机のところまで行き先週の分のメモを持ってきた。ヒロタが口にした新聞の見出し。ただしいつものように一週間分ではなく十日分あった。

今考えると、ヒロタはわざわざそうしたのかもしれなかった。うっかりしたふりをして。自分とのつながりが切れたとき、ほかの誰かに話を信じてもらえるように。

「これがさっき話した、新聞の見出しのメモです」僕は城田さんの手に押し付けようとし、城田さんは手を引っ込めようとする。

「これは、先週書いたものです。今日までの分はぴったり合っているのが分かるはずです。そして、ここから先が明日からの分」

城田さんの手の動きが止まり、僕はその隙に無理やりメモを握らせた。

「まだ『未来』の分が三日あります」と僕。

城田さんは気味悪そうな目つきをしたがメモを受け取った。頭のおかしい相手を刺激しないほうがいいと思ったのか、城田さん自身の好奇心のせいか。

「それが外れていたら、僕のことをどんなふうに思ってくださっても結構です。だけど、もし合っていたら」

「合っていたら?」

メモと僕の顔を見比べながら、つりこまれたように城田さんが繰り返す。

「その時は、またここへ来てくれますか」僕は祈るように言った。「いろいろお聞きしたいことや、お話ししたいことがあるんです」

城田さんはあいまいにうなずき、たちあがると、半分後ずさるように玄関に向かい、ドアを開けて出て行った。ふらふらした足取りで、でもメモはちゃんと手に持って。


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