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9月の恋と出会ったら  作者: 佐伯龍之介
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最後の尾行①

一階の郵便受けにオーナーからの手紙が入っていたのは、それから数日後のことだ。「2B 齋藤様」と書かれた封筒の中には黄色っぽい便せん、その上に青いインクの文字が並んでいる。乱暴に書きなぐったような、それでいてどこか様になっている、いかにも画家の手になると納得できる筆跡だった。

「前略、その後お変わりはありませんか。先日孫から国際電話があり、あなたの事をたずねたところ、やはり小学校で一緒だったことがあるとのこと。

 小生が『齋藤さんという男性』とのみ申しましたら『覚えているわ」と即答。『転校生の女の子』はたしかに小生の孫の真琴と判明した次第です。

 ちなみにその真琴は、年末にて駐在員の任を解かれ、東京の本社勤務となる由、小生も喜んでおります。

 それではご自愛のほど。なおここしばらく近在で空き巣狙いが横行しているとのこと、町内会で話題となっております。戸締りには十分お気を付けください。 草々」と書かれていた。

 そして水曜日、第三回の尾行。ヒロタが『山場になる』と言っていたから、何かが目の前で起こるのではないかと心配し、いくらかは期待するような気持ちもあったのだけれども・・・

 蓋を開けてみると、最初から散々な一日だった。まず天気、これまでの尾行はおおむねさわやかだったのが、どんよりと重苦しい空模様で、おまけに僕の体調も芳しくなかった。

 新宿に着き、尻太さんが会社のビルに入るのを見届け、九時になるのを待って証券会社の電光掲示板を撮影した。城田さんが外回りに出かけるのは早くても九時二十分と、ヒロタが太鼓判を押していたから。

 それなのに、九時十分かそこらに飲み物を買ってテラスに座った時、見覚えのある背中が視界を通りすぎたのだ。いつもと違う早足で、左手・・・新宿駅の方へ向かっていく。

 僕は慌てて立ち上がると後を追った。しかし、距離は縮まらず、駅近くの人込みの中で後姿を見失ってしまう。

 城田さんは駅構内に入ったのだろう。けれど、JRだけでも山手線、埼京線、中央線に総武線、地下鉄やほかの私鉄もある中で、どれに乗ったかなどわかるはずもない。

僕はしばらく茫然とたたずんでから迷った末に、城田さんの会社に電話してみることにした。

電話番号を調べてかけ、「営業の城田さんをお願いします」と言ってみると「お待ちください」と電話を回してもらえた。

「はい、営業部です」形態を震わせる勢いで、体育会系っぽい男の人の声が響く。

「すみません。そちらの城田さんは今・・・」

「あぁ、申し訳ありません。ついさっき出てしまいまして・・」男の人はいちいち語尾を長く伸ばしながら言う。

「よろしければ、代わって承りますが」

「あ、いえ、すみませんが仕事のことではなくて」

「お友達の方?」

「えぇ、まぁ」

「何か緊急のご用件ですか?」同僚への私用電話を取ったにしては、親切な対応だった。もともといいひとなのか、僕の声音がただ事ではない響きを帯びていたのだろうか。

「緊急というか、そのような・・・」

「だったら形態にでも・・あ、彼女プライベートの形態は持っていないんだな先方は独り言のように呟いてから、

「実は今、自宅に向かっている所なんですよ」

「自宅?」

「えぇ、取引先から急な電話がありまして、ちょっと予定が変わり、彼女の家においてある書類が必要になったので。あと四十分かそこらで着くと思うんで、自宅へ電話してみたらいいと思いますよ」

 友達なら自宅の番号を知っているはず。僕は知らない。仮に知っていたとしても電話するわけにはいかない。

「自宅に戻った後はどんな予定でしょうか?」

「お台場の方へ行くことになっていますけど・・」

「お台場?」

「臨海地区の。ゆりかもめに乗っていく」

 先方はそういうが、だんだん面倒そうな、不機嫌な口調になってきていた。これ以上詮索するわけにはいきそうもない。

 僕は礼を言って電話を切り、ともかくお台場へ行ってみることにした。城田さんがいったん自宅へ戻ったのなら先回りできる。向こうの駅で待てば見つけることができるはず・・・

 電車の路線図を見て、大江戸線で汐留まで行けばゆりかもめと接続することが分かった。初めて降りる汐留で、階段をいくつも上り、見慣れない形の改札を通る。これまでの二階の尾行では、依然行ったことのある場所に行き、交通機関も乗ったことのある電車や地下鉄だった。けれども今回はほとんど何もかもが初めてだ。

 城田さんを見失ってしまった焦りと、体のだるさで、夢の中を漂っているような気さえする。

モノレールゆりかもめに乗っていることも、宙に浮かんでいるようなきぶんをかきたて、ぐるぐると旋回ているような感覚。けれども窓から外を見ると、本当にレールが大きな輪を描いていた。

(レインボーブリッジを渡るまでに高さを確保ししなければならず、直線ではその距離が足らず、そうなっているのだそうだ)

 それとは別に、困ったのは、城田さんの会社の人が口にした『お台場』そのものずばりの駅がどこにもないことだ。『お台場海浜公園』か『台場』のどちらか。

 考えた挙句、よりにぎやかな『台場』で降り、駅の隅の方、改札が見える位置で待った。

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