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9月の恋と出会ったら  作者: 佐伯龍之介
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二度目の尾行②

 囲いのすぐ手前まで来ると、城田さんは右に曲がり、今度は左に曲がって、工事現場の裏手側に回る。

人気の名所まで来ると立ち止まり、また腕時計に眼を落す。 続いてあたりの様子をうかがったのだと思う。自慢ではないけれど、ある程度城田さんの行動パターンが読めるようになって、この時、僕は手回しよく理事に入り、電柱の後ろに隠れていた。

 電柱の陰から顔をのぞかせ、カメラを望遠鏡代わりに城田さんの様子をうかがう(それだけではなく、写真も撮る)。

城田さんは何度か僕の視界を出たり入ったりした。人通りのほとんどない裏手の道をうろうろして、工事用の囲いに途切れ目は無いか、低くなっている所は無いかと探しているみたいに。

 そんなものがないと分かると、思い切った行動に出た。いきなり地面にしゃがみ込み、営業用のカバンを脇に置いて、ごろりと横たわったのだ。

 アスファルトに保保を付け、囲いの下端に額を押し付けて、わずかな隙間から中を見ようとしている。何を見たいのだろうか?そんなにしてまで。

 あきれていると、どこからか警備員が現れた。中年の警備員が城田さんの頭のそばに立ち、見おろしながら何か言う。もちろん僕のいるところからは声は聞こえないのだが。

 それに対して城田さんが、地面に寝転がったまま何か答える。警備員が困ったように腕組みしながら、さらに何かいい、城田さんは相変わらずの姿勢のままさらに何か答える。

 前回の尾行の時に靖国通りで見た、城田さんと犬の姿みたいだ。そして城田さんが人間である分、今の方がもっと奇妙だ。

 警備員がさらに困り果てたような表情になり、腕組みをほどいて、城田さんに何か言う。たぶん「とにかく、立ちなさい」みたいなことだろう。

 城田さんは立ち上がり、決してなごやかではない雰囲気の中さらに言葉が交わされ、そのあと城田さんは服の埃を払い、カバンを持ち上げて歩き出す。警備員は後姿を見送り、「やれやれ」という表情をしてから、別の方角へ歩き出した。

 僕は路地から出て城田さんの後を追う。心なしか意気消沈したような足取りで、表参道と並行する裏道を歩いていくところだ。

 その後、原宿から山手線に乗って移動するまでの間に、城田さんはコンビニでサンドウィッチとコーヒーを買い、代々木公園で食べた。僕も同じく。

 公演の木々の間を吹いてくる風が、上着を脱いで芝生に座る城田さんの髪をなびかせ、十メートル離れたベンチに座る僕の顔を撫でていく。

 城田さんのうしろ姿を眺め、同じ風に吹かれながら、城田さんはあの工事現場を見たかったのだとそう考える。青山一丁目から表参道まで歩いてきた利、交差点で意味もなく立ち止まったりしたのは、関係者の姿が少なそうな「昼休み半ば」という時間になるのを待っていたせい。

 そういう事に違いない。でも、なぜ?横顔を地面にこすりつけてまで。穏やかで常識的にも、得体が知れず物騒にも見えるこの人は、いったい何を考えているのだろう?

 答えの出ない問いを繰り返し、ペットボトルのお茶を飲んだ。青空の下、東京オリンピックのためにつくられた体育館のかっこいい建物を遠くに見ながら。

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