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9月の恋と出会ったら  作者: 佐伯龍之介
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二度目の尾行①

 二度目の尾行は順調にスタートした。

お天気はまずまず、城田さんのぼんやりとした歩きぶりもあいかわらずで、たしかに尾行しやすい相手だと思う。

 すでに勤め先の場所が分かっているから、通勤ラッシュの流れの中でも前ほど緊張しなくて済んだ。とはいえついていくことに越した事は無く、無事城田さんがビルに入っていく姿を見送り写真を撮る。

 九時半くらいに出てくると、先週と同様、大江戸線の都庁駅前へ。ただし前回とは逆のホームから、都庁前行の車両に乗る。都庁前から都庁前行に乗るというのはどうしてもなじめない。循環バスのようにぐるぐる回っているならともかく、大江戸線の場合はそうではないからだ。

 六本木で下車。夜は華やかかもしれないけれど、昼に来れば頭の上を通る首都高が目立つごみごみした街だ。雑居ビルで一件目の打合せ。僕はビルの前で待機、ヒロタの助言に従って持ってきたオーディオプレイヤーで好きな音楽を聴いてそれなりに快適に過ごす。

 駅に戻ると逆方向 (光が丘行き)の大江戸線に乗り、青山一丁目へ。

しゃれた喫茶店で二件目の打合せ、深々とお辞儀をして得意先の人と別れると、青山通りを外苑前の方へぶらぶらと歩きだす。

 そんな風に方角の見当がつくのは、このあたりにはちょくちょく写真を撮りに来ていて、勝手がわかっているからだ。鴻上さんの言う『こじゃれた絵はがき』みたいな建物や景色に事欠かないというわけ。

 秋が深まるとアマチュアカメラマンや日曜画家でいっぱいになる『絵画館前のイチョウ並木』を横目に見ながら、さらに歩いて、外苑前のあたりまでやってくる。東京メトロ銀座線の駅だ。青山通りの下を走る地下鉄の一駅分を歩いてきたことになる。

 暑さもずいぶんやわらいだ今の時期、このあたりに用があるとしたら、たしかに歩いたほうが気持ちいいかもしれない。そう思いながらすっかり見慣れた後姿を追いかける。

 直接本人と口をきいたことはない、けれどもよく知っている・・・例えば友達の妹みたいな親しみを感じかけ、そんなのはおかしいとすぐに気づく。ヒロタは僕の友達ではないし、城田さんはその妹ではなく、一年前の本人だ。

 けれどもヒロタと城田さんはどこか違う。一年後と現在の同一人物、一方は声だけ、一方は姿だけしか知らないのに、そう思える。

 その城田さんは立ち止まる気配もどこかの建物に入る様子もないまま、同じ道をゆっくりと歩き続ける。もう一つ先の表参道駅まで来た時には、全身にうっすらと汗をかいていた。

 城田さんは立ち止まり、たいそうでもするみたいにいきなりひじを上げる。何の事は無い、腕時計を見たのだ。十メートル離れた後ろで、僕もみる。正午を少し過ぎたところ。

 城田さんはそのまま、青山通りと表サンドの過度に立ち尽くしていた。信号が変わっても横断歩道を渡るわけでもなく、僕の方から見ると、二本の道とそこに立った背中とかいつかヒロタの話に出てきた『縦横、、高さ』の三次元の図みたいだ。

 誰かと待ち合わせているのだろうか。そう思うけれど、かなりたってからふいに歩き出し、右に曲がって表参道に入り、JR原宿駅の方へぶらぶらと歩いていく。しばらく歩くと、僕たちのいる側に工事現場が見えてきた。

 けやき並木の表参道に沿って、工事用の囲いが続いている。しかも延々と。むやみに大きく、細長い工事現場なのだ。囲いの奥には建設中のビルの鉄骨が見える。

 去年まで、ここにはただならぬ建物があった。

 一つではなくいくつかの建物・・古い建物の集まりだった。三階建てかそこらで、今の基準からすると低く、壁は普通のコンクリートなのだろうけれど、長年の日焼けと汚れが混じって独特の黄褐色になっている。

 そんな壁にツタをからめたただ古いというより、遠慮なく言えばぼろぼろの建物は、全体で一つの生き物みたいに見えた。おとぎ話に出てくる優しい竜が、年を取って半分岩みたいになった身体に苔を生やし、うずくまって休んでいる。そんなふうに。

 同潤会アパートという名前だったはず、学生時代に初めて見たとき、一緒にいた友達に尋ねた。

 関東大震災の後に造られた、たぶん日本初の鉄筋コンクリートの集合住宅。友達はたしかそんな事を言っていた。元々住宅用で、その時も住んでいる人はいたはずだが、表参道に面した側はほとんど店舗になり、窓辺にお洒落な雑貨を飾ったり、ポップな看板を置いていたりした。

 こんなに古く、ぼろぼろである事と、お洒落であることが慮王立している。そのことにショックを受け、自分より高いけやき並木を十社のように従えた建物を畏敬に近い気持ちで眺めたのを覚えている。

その建物が去年取り壊されたことは聞いていた。跡地には商業施設のビルが建つ予定だということも。けれど、工事現場を見たのはこれが初めてだった。

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