表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/107

 プロローグ (改稿版)

 雨が降っていた。

 王都、南区、大通り。

 厚い雲に覆われて、辺りは夕暮れ時のように薄暗い。

 固い石畳は水はけが悪く、道全体が川のようになっていた。

 横倒しに倒れたあたしの、右の目尻が浸かっている。


(……お腹……空いたな……)


 あたしは倒れたまま、寂しい通りを見ていた。

 例年になく寒い冬。土砂降りの中を歩く者はおらず、あたしがここにいることを知る人もいない。

 運がなかった。

 これがよく晴れた日なら、大通りは人で溢れている。慈悲深い誰かに助けられたり、仲間が駆けつけてくれることもあっただろう。

 けれど今は誰もいない。

 だから助けの手は期待できない。

孤児になって以来、空腹で倒れる事は珍しくなかった。

 けれど孤児院にも帰れず、こんな場所でのたれ死ぬとは思わなかった。


(……もう、ダメかな……)


 体の感覚はほとんどない。

 目の前は変わらず汚れきった灰色で、どんよりと暗い色に沈んでいた。

 ──ふと、その色の中に黒いものが現れた。

 靴。足。その近くまで垂れる外套の端。

 人だ。

 水に濡れて重そうなズボンと、頑丈そうな靴。

 薄墨のような世界の中で、そこだけがハッキリと黒い。

 いつそこに現れたのかはわからなかった。

 だから幻覚かと思った。

 最期に見る、都合の良い幻覚なのかも、と。

 ……それともついに、お迎えが来たのだろうか?

 死の間際にやって来るという、終わりを司る闇の王が。


 けれど、その人は呟くようにこう言った。


「……死ぬのですか?」


 あたしは咄嗟に、何かを返事した。

 どんな返事だったのか、あたしにも分からない。

 口は動かず、声も出ず。

 だから、彼自身もその『答え』を聞けなかっただろう。

 けれどその人は、ため息をこぼすようにこう言った。


「……そうですか」


 心を零すような、思いを噛みしめるような……どこかせつなく悲しい声だった。









改稿前の小説は、http://ameblo.jp/taioji/に保存しております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ