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モノクロの君

作者: 宍倉 湊


 



 はっきり言って、彼に色はない




 彼が色素の薄い肌色の皮膚をしているのが不思議



 彼の血の流れを感じる桃色の唇が不自然





 私は知っている


 彼がモノクロだって事を






「ハルさん、真面目にやってる?」



「ん? ん~、やってるよ」



 友達に代わってくれと言われて、私は彼と同じ視聴覚室の掃除当番に当たった。


 しかも、他の人はサボって何処かに逃亡。



 彼と二人きり。



「塵取り取って来るから、待ってて」




 いちいち言わなくても逃げやしないよ



 飽きれ半分に「はいはい」とホウキを手に、私は隅のほうに行ってサッサと掃く。




 モノクロ、モノクロと勝手に私が決めつけているが、実は初対面


 不思議と彼にはモノクロのような第一印象を私に与えた




 男にしては色白な肌で、真っ黒な艶がある髪の毛で、学生服の黒もよく似合ってて、絵の具など無くても鉛筆1つで描けてしまいそうな…



 でも、描くのが難しそうで…



  彼は難しい


 彫りが深いからか、綺麗な黒の瞳だからか、髪の毛の艶を表現出来ないからか…


 とても現実にいるのが不自然な彼





 不思議で不自然





「ハルさん」



 そういえば、何故彼は私の名前を知っているんだろ?



「ハルさん?」



 彼は私を知って…?




「ハルさん!!」



 うるさいな…って振り返ると、モノクロの彼が私の近くまで来ていた。



「な、何よ…!」



「さっきから呼んでたんだけど?」



 呼ばれてたのか、そりゃあうっかりしゃっくりだ




「ゴミ取るから、入れて」



「はいはい…」




 彼がしゃがんで私の集めたゴミの前に塵取りをセットする。



 私は応えるようにホウキでゴミを塵取りに掃いた。



 そうやってゴミを取っていき、あっという間に掃除が終わった。



 少し、勿体なかった気がした




 私は珍しいモノクロくんに興味を持ち始めていたのだが、掃除が終わればまた接点のない同級生に戻る



 少しくらい話でもしてれば……楽しかったかも?


 いや、モノクロくんと共通の話題もないのに話なんて続かないか



 でも話してみなきゃ分かんない事だけど……まぁいいや



「ハルさん」



 そういえば、私の名前ばっかり言ってる気がする



「何?」



 視聴覚室のカギを閉めながら、彼を見た


 彼は黙ったまま



 聞こえなかったのかな?



「何?」



 今度は大きめに声を出した。



「なんで俺がハルさんの名前を知ってるのか、気にならないの?」




 気になる。君から言ってくるのも不自然な気がするけど



「気になるよ。教えてくれるの?」



 カギを抜いて、モノクロくんに渡そうと差し出した。


 でも彼は受け取ろうとしない。



「美術館に居合わせた事あったんだけど、覚えてないかな?」



「美術館?」



「ハルさん、絵に集中してたから気がつかなかったと思うけど、実は少し話したんだよ?」



「そう…なの」




 彼は表情を緩めて、照れくさそうにしていた。



 あの~、カギを受け取って下さいよ



「話してて、直接名前も教えてもらったんだよ?」



 私、物騒なヤツね…



「モノクロの絵だったけど、好きなんだね」



「モノクロ?」


 

 モノクロの美術館?

 1ヶ月前に行ったような…


 彼が声かけたって…!



「あ! モノクロの絵の前にいた男!」




 いたよ、いたいた!

あんまりよくは見てなかったけど声が大人っぽかったんだよ

 でも同じ学校で、しかも同い年なんて知らなかった



 モノクロのイメージも、きっとそこから…



「良かった。忘れられてなくて」



 そう言って、目を細めて優しく微笑んだ。



 驚いた。こんなに微笑む顔が綺麗なんて……




 この顔はモノクロで描くなんて勿体ない


 もっと褐色良くするのに赤とか、笑いシワの影に青みの黒とか、照らされて明るく映える為に黄色とか、ともかく色んな絵の具を使わなきゃ…




「あの、名前…教えてくれる?」



 彼は「え?」って声をもらして驚いたかと思えば、すぐにまた笑って…



「春樹だよ」



「春樹さん…ですか」



「今度は一緒に美術館行かない? 今までずっと一人だったからさ」



 ずっと握っていたからか、鍵に熱がこもっていた。


 その熱のある鍵を、春樹さんはゆっくり抜き取り、それから握りしめた。



 ただの鍵なのに、自分の熱が彼に伝わってしまった事が、何故か気恥ずかしく感じた。




「……うん、行きたい」




 ほらまた、彼は躊躇いなく微笑むのだ。







 色んな表情を、近くでもっと見たいと思った



 モノクロな無表情の顔がいいと思っていたけど、



 笑った春樹さんも色彩を凝らした美しい顔も良くて……




 彼を知りたい


 ただ素直に、そう思った。





《fin》

 

 

読んで頂きありがとうございました。


過去に書いていたものを引っ張り出しました。

今後もSS小説ばかりになりますが過去作品を投稿したいと思っています。

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