解き放てない⁉︎入学式4
トイレを済ました後、すぐに藤宮教師から体育館へ向かうよう指示が出た。
体育館に集合すると、校長の挨拶からなにかの役員の挨拶および紹介という、いつものつまらない始業式が始まった。
やはり国家支援学園だからなのか、国のお偉いさんもこられて、普通の始業式より、つまらない話を長時間聞くはめになった。
最後のあいさつは顧問の平等院清流より、挨拶があった。
(平等院?あいつの親戚か)
俺は平等院清流の話だけ少し耳を傾けていたが、特段周りの方々と同じような話だった。
長時間の始業式を終えると、もう時計は12時を指していた。教室へ着くと、藤宮教師より昼食をとるよう説明を受ける。
疲れた。
他の生徒も疲れているのか、だらだらした動きで、弁当持ちの物は弁当を取り出し、他は一階のホールで販売しているお弁当やパンを買いに教室を出ていた。
俺も弁当は持ってきていない。他の生徒と同様ホールへ向かおうとすると、また左手を掴まれる。
見知った手だ。
「私も弁当は持ってきてないわ」
(こういう時はどうすればいいんだ)
今まで女子との触れ合いがなさすぎて、反応ができずにいると、少し大きめな声で、再度平等院が言う。
「私も弁当は持ってきてないわ」
(聞こえていないわけではないんだがな)
「・・・よかったら、一緒に行くか」
「わかったわ」
俺たちはスタスタ歩き出し、4階にある教室から一階のホールへ向かう。
一階のホールには多くの生徒たちが集まっていた。まだ入学したてだからか、8人や10人といった大きなまとまったグループで食事をする生徒が多かった。
俺たちは各自食べたい物を買い、中心から少し外れた2人がけの丸テーブルに腰を下ろした。
平等院の前に、ご飯大盛り、味噌汁、おひたし、サラダの盛り合わせ、焼き魚、豚の生姜焼き、ヨーグルトが並べられる。
(こいつ、めちゃ食うのな)
顔に感情が出ていたのか、平等院に睨まれる。
「育ち盛りなのよ。普通よ」
「そう言うもんかな」
俺は平等院の身体を見る。身長は160cmくらいで、まあ華奢だし、全体的にスマートに整っている。そう言う意味ではもう少し食べた方が良いのかもしれない。
そう考えていると、平等院は身体を萎縮させ、胸を隠すように手で押さえながら、怒りの表情をあらわにする。
「あなた変態なの?軽蔑するわ」
「思春期真っ最中の盛りざかりなんだ。許してくれ」
「私を見て、盛るなんて言葉使わないで。とても気持ち悪いわ」
「すみません、冗談です」
今回は俺が悪いので、すぐに謝った。
しかし変わらず、平等院は俺をケダモノを見るような目で見ている。
俺は話を変えるために、気になったことを質問した。
「始業式の時、最後のあいさつしたあの平等院さんはお前の親族か」
「そうよ。父にあたるわ」
本当に父親なのか、まるで他人のように淡々と話すその姿は、なんとなく複雑な家柄事情が見えた。
「そうなのか。いろいろ大変そうだな」
(こう言う時は、あまり踏み込まず、違う話をしよう。誰にでも触れられたくないことはあるしな。話を変えよう)
「さっきの自己紹介の時話していたけど、平等院さんは5中なの?」
「この学園に来るほぼすべての生徒はそうじゃないかしら」
「そうなんだ。やっぱり優秀なんだな」
「推薦を受けてるあなたに言われたくないわね。嫌味?不愉快だわ」
「単純に誉めてるだけだ。なんでもかんでも悪い方に捉えるのはよくないぞ」
俺も中学時代色々あって少し拗らせてる気はするが、平等院は俺よりも拗らせてそうだ。
「世間的には、国家支援中学校として存在する5校、通称5中、異能力者が存在し、世界を導く存在とか言われてるけど、ピンキリよ。ただ幼い頃に異能が見つかって、大した成長もせず、落ちこぼれていく人も少なくないわ」
「名門校は名門校で色々あるんだな」
「逆にあなたみたいな人の方が珍しいわ」
「だから興味半分で、俺みたいな珍しい生徒と食事をしているわけか」
「あなたから誘ったのよ。何言っているの。ただ、珍しい生徒だから誘いを断らなかったのは事実かしらね」
平等院は少し自慢げにこちらを薄笑いしながら、嬉しそうに話す。
可愛くなかったらぶっ飛ばしているところだが、許そう。実際1人で食事しているより、幾分か心が落ち着く。
てきとうに談笑しながら、食事を進めていると、途中で平等院は箸を置いた。
「少しお願いがあるのだけど、いいかしら」
俺は昼食のラーメンをすすりながら、うなづく。
「私と一緒に生徒会入らない?」
「うーん、辞めとく」
俺は辞退した。