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命より重い契約を今ここに2


俺と平等院は、生徒会三名と別れ下宿先へ帰っていた。

竹内生徒会長と三谷副会長は下宿先が一緒だが、冴島先輩は1人帰り道が異なるので、「よかったら、送って行きましょうか?」と話したが、「私を女扱いするな!!」と怒られてしまった。


別に女扱いとかそんなつもりではないのだが、冴島先輩の意見を尊重し、俺たちは2人で帰ることにした。



ケヤキ道。

この道を歩いていると、どうしてもあの時を。

あのゲームセンターの帰りを思い出してしまう。


苦い思い出だ。

今さら考えても仕方がないが、あの時平等院の手を握っていればと、どうしても考えてしまう。

話題に出すべきなのか、もう閉じ込めて置くべき話なのか、俺はわからない。


けど、今は違う。

平等院とともに歩くと。そう心に誓った。

あの時とは違う。


俺は満天に輝く星空を眺めながら、歩いていた。



「今日は、ありがとう」

平等院は俺の隣で歩きながら、並木通りのケヤキの木を見ながら話す。

「正直、助かったわ。あなたがいてくれて、本当によかった。感謝してる」

「どういたしまして」

俺は簡単に返事をする。


平等院は続けて話す。

「私ね、これまでずっと1人でやってきたわ。誰一人頼らず、誰一人近づけず、自分だけの力で頑張ってきた。

けれど、それは私がみんなのことを気遣ってとか、そういうことではないの。ただただ、嫌われたくなかったとか、裏切られたくなかったとか、そんな矮小な理由なの。怖かったの。本当の私を知った周りの人が、私から離れていくことが。だから、私はこれまで一人やってきた」


平等院はそう言うが、俺はそんな風には思わない。普段の素ぶりからして、平等院は気遣いし過ぎなくらいだ。


「そして、ごめんなさい」

「何を謝る必要があるんだ?」


「私、あなたを利用する為に近づいたの」

「どういうこと??」


「私の父、平等院清流から、あなたに近づくように言われたの。だからあなたに近づいた。そしてあなたを利用しようとした。ホント最低だわ」


なるほど、なんかしっくりきた。

実際なんでこんな美少女が俺に近づいてくるのか理解できなかったので、少し自分の中でスッキリした。


「嫌いになったよね?ホント最低でしょ。世の中やっていいことと、やってはいけないことがある。今回はやってはいけないことだわ。本当にごめんなさい」

平等院は自身を責めるようにしながら、深々く俺に頭を下げる。


「平等院、お前何にも分かってねーのな」

こいつは変なところで鈍感というか、天然なところがある。そこがまた良いところなのだが。

それにしても、こいつは本当に分かってない。


「どういう意味??」

平等院は全然理解できてそうにない顔をしていた。


「今後のためにも教えといてやる」

おれがそう言うと、平等院は不安そうにこちらを見つめる。


「いいか。どんな訳があろうがな、ぼっちが美少女に声かけられたら嬉しいし、テンションアゲアゲなんだよ。しかも夜部屋に訪問されてみろ。もう今日死んでも良いんじゃないか?って思うくらい幸せになってんだよ。だから、もしろこっちがありがとうって感じだぞ。お父さん、娘さんに僕を勧めて頂きありがとうございます。って今度菓子折を持って行きたいぐらいだ」


俺はぼっちの心情をしっかり平等院に伝えるが、それでもあまり理解できたいなさそうな平等院がいた。


「私から話しかけられて嬉しかった??」


「あぁ、ぼっちの俺にとっては救いだったよ」


「私と出会えてよかった?」


「お前がいなかったら、今頃不登校だよ」


「私って美少女??」


「お前は正真正銘の美少女だ。そして、天然で、鈍臭くて、無鉄砲で、アホで、ワガママで、よく食べて、よく寝て、よく泣く」


「最後の方は余計なのだけれど」


そう、平等院が突っ込みを入れる。


「クスックスックスッ」

「フッフッフッ」

俺たちは顔を見合わせると、徐々に笑いが込み上げてくる。

『アッハッハ!アッハッハ!』

2人は腹を抱え、少し涙交じりになりながら、大声で笑った。



しばらく笑い合い、笑いのピークが過ぎ去ると、平等院が話し出す。


「じゃあね、ワガママな私の最後のお願いを聞いてもらってもいい?」


「そう改まって言われると、嫌なんだが」


「いや、ここは聞きなさいよ!!」


「冗談、冗談、じゃあ最後に聞いてやるよ」


そう、俺が言うと、平等院は自分の右手の親指を口に寄せて、「ブチッ!?」と口で親指の腹を少し切り、血が流れる。


「おい、お前何して!?」

と、俺が平等院に話そうとすると、平等院はすかさず俺との距離を縮める。


こっこいつ早い!?


すると、平等院は、俺の右手を取り、平等院の口へと入れ、親指の腹の部分を同じ様に噛む。

すると、平等院は俺から離れ、少し照れ臭そうにしている。俺の指からも少し血が流れる。


「お前、ヴァンパイヤだったのか!?」

「違うわよ!!」


「じゃあただの変態じゃねーか!!いきなり人の親指噛むって、かなり重度だぞ!!病院へ至急行ってこい!!」

「違うわよ!!ただのスキンシップよ!!」


「お前のスキンシップの概念広すぎだろ!!」

病院へ行く必要あるじゃねーか。



全く、やっぱりこいつはかなり拗らしているな。

正直ドン引きだわ。

内心ドキドキだけど、本当にドン引きだわ。



「私も、あんたの指なんて咥えたくなかったわよ!!だけど、仕方ないのよ!!あんた自分じゃ親指の腹切ったり出来ないでしょ!?

「まあできないけど、そもそも切る必要性が感じられないのだが!?」


「それは今から行う儀式の為に必要なことなのよ!」

「儀式??」


「そう儀式、契約といってもいいかもね。今から行う儀式は、平等院家で代々受け継いできているもので、お互いが信頼の証として、切った親指と親指とを合わせ、お互いの血を交わすの。そして、お互いが今後一体となって助け合うことを誓うのよ!!どう凄いでしょ!!」

「凄いというか怖いわ!!」


「大丈夫!大丈夫!父さんも母さんとやったらしいし、体に変な異常をきたすとかはないわ」


「いやいや、大丈夫のベクトルが可笑しいだろ!!」

それはほぼ結婚とかそんな話なのでは?


「やっぱりいや??」

平等院は俺を上目遣いで、見つめる。

やめてくれ、断れなくなるじゃねーか。


「いや、いやでは無いけどな。嫌ではないけど、怖いんだよ」

「やっぱり嫌なんだ。」

やっぱりそうなんだ。七海も結局はみんなと一緒なんだとか、小言で平等院は早口で呟いている。


「だから、嫌じゃないって言ってるだろ!!ほら手を貸せよ!!」

もう心に決めた。


俺は半ば強引に平等院の右手を掴み、俺の右手と平等院の右手を重ねる。

平等院は驚きながらも、俺のやる事に抵抗はしない。


「儀式って言うからには、手順とか決まっているのか?」


「え!?そっそう!そう!えっと、これから男の方から何か誓いの言葉を言ってね!!女がそれに答えて、指を重ねる感じ!?そんな感じ!!あっあとその私初めてだから、優しく丁寧にお願いね」


ツッコミどころが山ほどあるが、もう進めよう。

このままではいつまでたっても進まない。


「平等院、これから俺はお前を一人にしたりはしない。だからお前も俺と一緒に歩んで欲しい」

俺はあまり考えず、ただありのままにストレートに自分の思いを言葉にした。


「はい」

平等院はそういい、俺と平等院は親指と親指を重ねた。


「これで、七海は逃げられないわよ」

平等院は嬉しそうに話す。

「安心しろ。逃げたりしねーよ」

「もし逃げてもね。永遠に、あなたが死ぬまで追いかけるからね」

「お前時よりヤンデレみたいになるのやめろよな!」

「そして、あなたを殺したあと私も死ぬわ」

「だから、ヤンデレやめろ!」


俺たちは。


冗談を言い合いながら。

顔を合わせ微笑み合いながら。


命より重い契約を今ここにしたのだった。



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