運命の人7
激しい攻防が続く中、どちらともが攻めあぐねていた。いや、正確に言うと、攻めあぐねていたのは平等院の方だ。
生徒会としては、別段攻める必要がない。寧ろ長期戦に持ち込み、最後は人数の差で押し込めば済む。
逆に考えれば、誰も倒れないことが、1番の勝利条件で、危なくなる前に一旦距離を取るなど、リスク回避しながら戦っていた。
それも平等院は理解している。
長期戦に持ち込めば持ち込むほど、不利になると。
だから、開始と同時に、最強異能を使い、多くの魔力を消費してでも、決着をつけようとした。
その作戦も間違いではない。
しかし、あと一歩のところで作戦は失敗した。
初めの作戦が失敗した時点で決着は決していたようなものだった。
1回目は一瞬の油断から冴島を追い詰めた平等院であったが、2回目はない。
集中している冴島に対し、近距離では大槌を持った冴島に武がある。中距離であれば、平等院の方に武はあるが、どこからでも発生する竹内の鎖をケアしながらとなると、冴島に決定打は与えられない。
また三谷の流炎乱舞も、氷を宿しながら戦う平等院の体力を着実に奪っていった。
傍目から見ている観客も、もう終わりが近づいているわかっていた。
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「もう、最後にしようか」
冴島さんは大槌を地面に刺すように置く。
「そうですね」
私は満身創痍な身体に無理を強いながら、疲れを感じられないように、冷静に答える。
「お前、本当にいい線いってたぜ。だけど、ここで終わりだな。」
冴島さんは私に何が言いたいのだろう。
褒めているのか。貶しているのか。
いや、違うか。
最後の挨拶をしているのだろう。
だけど、私は諦めない。
「本当に、これで最後です。生徒会さん」
私は私なりの精一杯の返事をすると、冴島さんはニカっと笑う。
【黒龍の咆哮】
冴島さんの前に術式が組まれていき、やがて冴島さんの倍ほどの大きな円陣になる。
「行くぜ!!」
冴島さんは大きく振りかぶり、大槌で円陣を叩く。
円陣から、炎を纏った大きな炎石が私に向かって、飛んでくる。
これで最後になる。
私は今できる最大限の力を絞り出す。
【姫君の涙】
右目から一滴の涙が地面落ちると、無数の氷の粒が地面から湧き上がり、キラキラ輝きを放つ。
私は両手を前に差し出し、無数の氷の粒を放つ。
『ガッガッガッガッ!!』
私達の異術が衝突し、炎石と無数の氷の粒が擦れ、破片が周囲に散らばる。
炎石は少し勢いを緩め始めるが、
『ヴォーーヴォーーヴォーーヴォーー!!』
どこからか黒龍の唸り声が聞こえ、炎石は勢いを取り戻し、氷の粒喰らい尽くしていく。
無数の氷の粒はキラキラと輝きを放ちながら、徐々に消えていく。
『ダッダッダッダッーー!!』
勢いが増した炎石に対し、今の私に出来ることはない。
私は【氷炎の守神】を解き、ゆっくりと地面に座る。
「もう、これまでね」
良いことも。悪いこと。嬉しいことも。悲しいこともすべて。
何が、間違っていたのかな。
何が、よくなかったのかな。
いや、今はそんな事はどうでもいいか。
本当に、本当に、ごめんなさい。
父さん、力になれなくて。
本当に、本当に、ごめんなさい。
七海君。
私は運命を受け入れながら、そっと目を閉じる。
【バニッシュオーブメント】
突然、黒龍の如く勢いのあった炎石と地面との摩擦音がピタリと消える。
『ごめん、遅くなった』
懐かしい声、聞き慣れた声が聞こえる。
私は目を開いた。
見慣れた背中。
右手に黒い剣。
真っ二つになり、転がっている炎石。
目の前の状況に頭が追いつかない。
どうして?っと声にならないような微かな声が、口から漏れる。
彼はそんな声に反応し、こちらを振り向く。
「一人にして悪かった。これからはずっと一緒だ」
そう彼は言うと、私に優しく微笑んだ。
「それと、平等院は何でもかんでも、自分で解決しようとしすぎだ。これからはもっと周りに頼れ。特に俺にな。こう見えても、役にはたてるぜ。たぶん」
彼は説教っぽく、そして愛らしく話す。
「まあ急に言われても信じられないかもしれないし、平等院へのアピールがてらに、この状況をどうにかするよ」
「どうにかって?⋯⋯無理⋯⋯⋯⋯もう十分よ。ここに来てくれた。それだけで私は⋯⋯⋯⋯」
溢れる涙がポロポロと地面に落ちる。
【守護円陣】
彼は私の涙拭きながら、私に異術による治療を行う。
「この円陣から見守っといてくれ。そして、安心してくれ
異術には自信があるからさ!!」
そう言うと、彼は私に背を向け、歩き出す。
私は彼に声をかけるわけでもなく、ただただ彼の様を見つめていた。
その背中はどこかいつもよりも大きく、そして安心出来た。
なるほど。
父さん、やっとわかった。
彼は運命の人だ。




