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運命の人7


激しい攻防が続く中、どちらともが攻めあぐねていた。いや、正確に言うと、攻めあぐねていたのは平等院の方だ。


生徒会としては、別段攻める必要がない。寧ろ長期戦に持ち込み、最後は人数の差で押し込めば済む。

逆に考えれば、誰も倒れないことが、1番の勝利条件で、危なくなる前に一旦距離を取るなど、リスク回避しながら戦っていた。


それも平等院は理解している。

長期戦に持ち込めば持ち込むほど、不利になると。


だから、開始と同時に、最強異能を使い、多くの魔力を消費してでも、決着をつけようとした。

その作戦も間違いではない。

しかし、あと一歩のところで作戦は失敗した。


初めの作戦が失敗した時点で決着は決していたようなものだった。


1回目は一瞬の油断から冴島を追い詰めた平等院であったが、2回目はない。

集中している冴島に対し、近距離では大槌を持った冴島に武がある。中距離であれば、平等院の方に武はあるが、どこからでも発生する竹内の鎖をケアしながらとなると、冴島に決定打は与えられない。

また三谷の流炎乱舞も、氷を宿しながら戦う平等院の体力を着実に奪っていった。



傍目から見ている観客も、もう終わりが近づいているわかっていた。




◆◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◆






「もう、最後にしようか」

冴島さんは大槌を地面に刺すように置く。


「そうですね」

私は満身創痍な身体に無理を強いながら、疲れを感じられないように、冷静に答える。


「お前、本当にいい線いってたぜ。だけど、ここで終わりだな。」

冴島さんは私に何が言いたいのだろう。


褒めているのか。貶しているのか。

いや、違うか。


最後の挨拶をしているのだろう。


だけど、私は諦めない。

「本当に、これで最後です。生徒会さん」


私は私なりの精一杯の返事をすると、冴島さんはニカっと笑う。



【黒龍の咆哮】

冴島さんの前に術式が組まれていき、やがて冴島さんの倍ほどの大きな円陣になる。

「行くぜ!!」

冴島さんは大きく振りかぶり、大槌で円陣を叩く。

円陣から、炎を纏った大きな炎石が私に向かって、飛んでくる。



これで最後になる。


私は今できる最大限の力を絞り出す。


姫君ダイヤモンドティアーズ

右目から一滴の涙が地面落ちると、無数の氷の粒が地面から湧き上がり、キラキラ輝きを放つ。

私は両手を前に差し出し、無数の氷の粒を放つ。



『ガッガッガッガッ!!』

私達の異術が衝突し、炎石と無数の氷の粒が擦れ、破片が周囲に散らばる。


炎石は少し勢いを緩め始めるが、


『ヴォーーヴォーーヴォーーヴォーー!!』


どこからか黒龍の唸り声が聞こえ、炎石は勢いを取り戻し、氷の粒喰らい尽くしていく。

無数の氷の粒はキラキラと輝きを放ちながら、徐々に消えていく。



『ダッダッダッダッーー!!』

勢いが増した炎石に対し、今の私に出来ることはない。


私は【氷炎の守神】を解き、ゆっくりと地面に座る。




「もう、これまでね」


良いことも。悪いこと。嬉しいことも。悲しいこともすべて。

何が、間違っていたのかな。

何が、よくなかったのかな。


いや、今はそんな事はどうでもいいか。


本当に、本当に、ごめんなさい。

父さん、力になれなくて。


本当に、本当に、ごめんなさい。



七海君。



私は運命を受け入れながら、そっと目を閉じる。










【バニッシュオーブメント】


突然、黒龍の如く勢いのあった炎石と地面との摩擦音がピタリと消える。



『ごめん、遅くなった』



懐かしい声、聞き慣れた声が聞こえる。

私は目を開いた。


見慣れた背中。

右手に黒い剣。

真っ二つになり、転がっている炎石。


目の前の状況に頭が追いつかない。


どうして?っと声にならないような微かな声が、口から漏れる。

彼はそんな声に反応し、こちらを振り向く。


「一人にして悪かった。これからはずっと一緒だ」


そう彼は言うと、私に優しく微笑んだ。


「それと、平等院は何でもかんでも、自分で解決しようとしすぎだ。これからはもっと周りに頼れ。特に俺にな。こう見えても、役にはたてるぜ。たぶん」

彼は説教っぽく、そして愛らしく話す。


「まあ急に言われても信じられないかもしれないし、平等院へのアピールがてらに、この状況をどうにかするよ」


「どうにかって?⋯⋯無理⋯⋯⋯⋯もう十分よ。ここに来てくれた。それだけで私は⋯⋯⋯⋯」

溢れる涙がポロポロと地面に落ちる。


【守護円陣】

彼は私の涙拭きながら、私に異術による治療を行う。


「この円陣から見守っといてくれ。そして、安心してくれ



異術には自信があるからさ!!」



そう言うと、彼は私に背を向け、歩き出す。

私は彼に声をかけるわけでもなく、ただただ彼の様を見つめていた。

その背中はどこかいつもよりも大きく、そして安心出来た。



なるほど。

父さん、やっとわかった。



彼は運命の人だ。





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