埋まらない二人の溝2
今日は平等院と少し話そう。
昨日頬月さんと話し色々考えたが、自分の中で上手く整理もついていなければ、平等院になんと話したらいいのかわからない。
けど、このままでは、嫌だ。
その気持ちは嘘偽りなくある。
話し合おう。
俺は朝いつものトレーニングを終え、学校へと向かう。
下駄箱で靴を履き、教室へ向かおうと歩いていると、学校の掲示板のところに多くの生徒が集まり、何やら騒がしい。
人混みが嫌いな俺はいつもなら、興味もなく、通りすがるだが、何か嫌な予感がした。
掲示板には、部活の募集のポスターや、学食のメニューとか様々なものが貼り付けられているが、生徒達の目線の先は違っている。
『決闘!生徒会役員3名 VS 平等院清華』
平等院清華より、生徒会へ決闘の申し出。
生徒会、申し出を6月1日受理。
学校、申し出を6月1日受理
6月2日(本日)16時、異術訓練第一体育館にて決闘を開催。
要求内容
生徒会役員、平等院の生徒会への永久不干渉。
平等院清華、生徒会の解体。
なんだこれは。
聞いていない。知らない。わからない。
俺は頭の整理ができていないまま、教室へと走った。
「平等院!!」
俺は教室のドアを開けながら、平等院を呼ぶ。
平等院は自席にいつも通り座ってた。
平等院と目線が合う。
優しく、そして悲しい眼差しを、まるで俺を諭すように見つめる。
もう大丈夫、そう告げるように。
なんで俺に相談しないんだ。
なんで俺に頼らないんだ。
そんなに信用出来ないのか。
聞きたいことは山ほどあるが、重く閉ざされた口が開かない。
なぜ?そんなことは、分かりきっている。
脳裏に悪い思考が巡る。
平等院から何度生徒会に誘われた?
【その時、お前はなんて答えた。なんで手伝おうとしなかったんだ?】
平等院が放課後姿を見てない時があるだろ?
【その時、お前は何をしているか、わからなかったのか?違うだろ。わからない振りをしていただけだろ。】
平等院が、1人で頑張っているのをわからないのか?
【お前は中学の時、1人になって逃げてきたよな。だけど、平等院は違うだろ。今の今までずっと努力してきているだろ。なんで助けようと思わない。なんで手を差し伸べてこなかったんだ。】
すべて、すべて、お前の言っていることは矛盾だらけ。お前の言っていることは偽善だらけ。
なぜお前を頼らない?
頼れる訳がないだろう。
誰がお前に頼るんだ!
【所詮、お前も周りの奴らと同様、他人だ。】
自身の愚かさに自問自答する。
優しく微笑みかけてくれる平等院にかける言葉が、かけても許される言葉が見当たらない。
「ごめん。」
それが俺が唯一発した言葉だった。
俺はゆっくりと平等院の席を通り過ぎ、自席に座ると、
「こちらこそ、ごめんなさい。」
平等院の暖かく優しい言葉が、胸に響いた。
1日の授業を終えた合図のチャイムが鳴り響く。
今日の授業は全く手につかなかった。
考えれば、考えるほど、分からなくなる。
帰りたい。帰って全てを忘れたい。そんな気持ちもあるが、俺は平等院を見届ける必要がある。
15時30分、俺は教室を出て、異術訓練第一体育館へ向かう。
第一体育館はこの校内で一番大きな規模の体育館で、体育館という言い方をするのだが、一見すると、スタジアムと呼んだ方が正しいのでは、と思いたくなるほど広い。
そして、ドーム型の形態をしており、観客席も多い。
「人多いな。」
ただでさえ、決闘が珍しい上に、現生徒会VS平等院となれば、注目されるのだろう。
俺は一番近い位置ではなく、全体を見渡せる少し人とは離れた席に座る。
俺は少し緊張しながら、待っていると、学校にいる様々な学生がぞろぞろと入ってきて、だんだん観客席も埋まってくる。
「平等院とかいう生意気な一年なんて、ぼっ飛ばしてやれーー!!!」
「竹内生徒会長頑張って〜〜!!」
「キキちゃーん今日もクールに頼むよ〜〜!!」
野次やら、黄色い声援やら、色々聞こえる。
ただ平等院に対する応援は聞こえない。
これも当然なのだろう。生徒会はこれまで色々積み上げてきたものがきっとある。それに対し、平等院には何もない。むしろ噂を聞いていた場合、上級生からしたら、いい印象は持たないだろう。
ただ、それでも俺は、平等院が悲しむ姿は見たくない。刻々と迫る決闘の始まりを、俺は祈る思いで過ごした。




