気付けばそこに居た。
私は、気が付いたらそこに居た。
昨日話した子が、次の日に喋れなくなるのは、別段不思議ではない場所。
最後にものを食べたのは、いつだろう。
飲み物を飲んだのは、いつだろう。
人の温もりを感じたのは、いつだったけ?
人の優しさを感じたのは、いつだったけ?
でも私は、ここで生きてます。
晴れれば、おいしいものが箱に入っている。
雨が降れば、喉を潤すことができる。
素敵な場所です。
雨は好きだ。かわきを癒してくれるから…。
太陽は好きだ。あたたかいから…。
この前、騎士さんがミラちゃんを連れていちゃった。
ミラちゃんていうのは、昨日四歳になった子で、私と遊んでいた子だ。
騎士さんは、
「ん?この子かい?この子は貴族になるんだ。」
「きぞく?きぞくって幸せ?」
「ああ、幸せだ!」
「じゃあ、ミラちゃん幸せだね。よかった。」
“ママていう人が死んだ”って、ミラちゃんが言ってた。そのときミラちゃん悲しそうだった。
だから、ミラちゃんが幸せで、私は自然と笑えていた。
きぞくってすごい。きぞくになれば、みんな幸せだ。
何回太陽が沈んだか、何回月が出たか、分かんないそんなある日。
騎士さんが来て、みんなに退去命令っていうのを出した。
どうやら、おうひ?っていう人がここに新しい物を作るらしい。
「それを作ったら、幸せ?」
「君は…。ああ…、幸せだ。」
「みんな貴族?」
「貴族じゃないが、幸せだ。」
騎士さんは、そうやって悲しそうに笑いかけてくれた。
あれから、いくつの月日が経ったか。
新しくできた建物は、みんな幸せを求めて集まっている。綺麗な人も、かっこいい人もいろんな人が集まっている。
みんなが幸せを求めてる。幸せをくれるおうひさんは、すごいや。
「王妃のいつものだよ。」
「酷いな…。」
「スラム出身者だからって、これはいくらなんでも。」
でも、変だ。みんな辛そうだ。綺麗な人もかっこいい人も騎士の人も…、みんな辛そうだ。
「ラッテリオ。」
「師匠。」
そんな人たちを見ていたら、後ろから声をかけられた。
師匠は、私にいろんなことを教えてくれた人だ。幸せの仕方を教えてくれたのも師匠だ。
「どうしたの、師匠?明るいのに、外にいるなんて珍しいね。」
「ああ、そろそろお前も一人前だ。一人で仕事を任せてもいいだろう。」
「私にも、誰かを幸せにできる仕事をやらせてくれるの?」
「…、ああ。とりあえず、私の家で落ち着いて話そう。」
「はい!」
私は嬉しくて、スキップしてしまいそうだ。
私は、綺麗なお月様が出ている日。今日が私の初めてのお仕事の日だ。
私が来たのは、太陽が出ているときは、キラキラしてる大きな建物だ。大きな壁に囲まれていて、騎士さんが沢山いる所だ。
「いいか、決して誰にもばれてはいけない。我々は、人知れず彼女を幸せにしてあげるんだ。」
これは、師匠と私の約束。だからは、私は誰にも見つからないようにする。
「こんばんは。」
「だれ?」
「私は、あなたを幸せにするものでしゅ。」
いけない、噛んでしまった。恥ずかしくて、頬が熱くなる…。
「フフ、可愛らしい子ね。」
そう言って、綺麗な人が笑う。
綺麗な人は、切れ長の目でその目尻はやや上がっている。青い瞳も、見ていると吸い込まれてしまいそうだ。小さな白い顔に、金色の髪。金色の髪は聞いていたグルグルしたドリルみたいな髪形じゃないけど、綺麗な髪を腰辺りまで伸ばして、広場のめがみ?像みたいだ。
「あなたは幸せ?」
「わたくしは今とても幸せなの。これ以上、私をどうやって幸せにしてくれるの?」
「よかった。じゃあ、手出して。」
綺麗な人は、私の言うことを聞いて、その白い手をこちらに出してくれる。私はそれを左の手で握り…、右手に隠したナイフで彼女の首を刺した。
「っ!」
「私がもっと幸せにしてあげるね、“ミラちゃん”。」
ミラちゃんの首から不幸のもとが流れる。
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翌日、ミラベル・デ・シャリア王妃が床に臥せたという知らせが王都で広まった。
これにより、スラム街で行われていた処刑という名の、虐殺は終了した。また、王都と各地域で課せられていた税も軽減。荒れていた国に平穏が訪れた。
さらに翌日、王城の水堀で口から血を流した少女が発見された。
彼女は城で働くメイドであり、その顔は“幸せそうだった”という。