第9話 視点変更~アルト~ アルトからみたアキの印象
ふわふわとした寝心地に意識が失われる刹那、ふとアキさんの事を思い出す。
「ふふ、素敵なお爺様。あんな事を言ったのに、許してくれるなんて……。出会いに感謝を……」
もう途絶える間際の現実の端でふと独り言つるのが上手くいったかは分からない。
生まれた時から、城と呼ばれる建物の中で暮らしていた。父は物心が付く前に亡くなったと聞いた。そんな母も二年前に流行り病で亡くなった。それからは城の侍従が父親代わりとなった。昔は将をしていたと言っていたが、がっしりとした体格の優しいお爺さん。
癒しの魔法は血統に左右されやすいと言われて、部屋の中で怪我人や病気の人を相手にするのが殆どの日常だった。また、癒しの魔法使いは過去の英霊を呼び出せると言われたのは幾つの頃だろう。
お母さんが健在の頃から城の一室だけが私の世界。小さな窓から見える景色だけが私の異界。十五の誕生日、初めて祭壇に訪問する事になった時は心が躍った。初めての外は感動するほどに鮮やかだった。物静かなお父さんは一言だけ、すまないと言っていたが、謝る事なんて何かあったのだろうか。他の侍従の人の話をそれとなく聞いていると、あの祭壇は各国の支配下から外れた緩衝地帯になっており、王族達が話し合いをするための場所になっているらしい。難しい話だったので、全然理解出来なかった。
祭壇に立ち、文献を確認して、英霊の呼び出し方を理解したのが初回の訪問だった。体を清めると言って、祠の外の小さな泉で水浴をした時に震えが止まらなかったのを覚えている。なにも冬の最中に水を浴びなくてもとは思った。
「体に変わりはないか?」
護衛の長として同行してくれたお父さんは手順を覚えた私が祠から出てくると、優しく声をかけてくれた。
「うん、大丈夫」
そう答えると、微笑みぽふりと頭を撫でてくれた。
「そういう時は、はい、だ」
「はい、お父様」
「うむ」
そんな感じで、城に戻るまでずっとお話をしていた。喋るともこもこのお髭が動いて可愛いの。
そんな私の日常。
光を感じて、薄く目を開ける。目の前には青空がどこまでも広がり、一瞬、空を落ちている最中じゃないのかと、どきりとした。周囲を見渡すと、清潔で物凄く真っ白で軽いお布団。あまりの柔らかさと暖かさに、もう少しだけ潜っておきたい気もするけど、下では物音が聞こえるし、何より美味しそうな匂いが漂ってきている。
「うー、懐かしい夢だったぁ……」
最近、お父さん、お母さんの事を思い出す機会も少なくなっていた。アキさんが優しいから、少し思い出しちゃったのかな……。。
でも、六十歳って言ってたけど、凄く痩せているし、服もなんだかすらっとしてて奇麗。お爺ちゃんと言うと、醜悪にぶくぶく太っている人ばかりだったけど……。
お顔は少し顎が細いのかな。国では、四角っぽい顔の形の男の人が多い印象だけど、少し女性っぽい三角形。お髭は全然生えていなかった。髪は光に当たる度に輝きが変わる。昨日の夕ご飯の時の食器の銀と同じような色……。お父様はがっしりとした体格だったけど、昨日服を脱がれた時は、そこまでごつごつした感じはしなかったかな……。でも引き締まって、体を動かす度にその下にある筋肉はその存在を訴えていた。女性みたいに奇麗なのに、きちんと男性だったな……。ふふ、奇麗って男性でも当てはまるんだ……。
「ふわぁ……格好良いよね……。うー、私の事、どう思っているのかな……」
昨日の子供みたいな無礼な態度を思い出して、このままお布団に隠れていたくなるけど、お手伝いしない女の子は益々嫌われそうな気がする……。
「さて、降りようかな」
もこもこの服の裾が上がってきていたのを直していると、くぅっと可愛らしくお腹が鳴って、顔が真っ赤になる。恥ずかしい……。もう、物凄くおいしそうな香りがするんだもん……。
くにくにと顔を揉んで紅潮と強張った顔を直して、ベッドの横の扉を開ける。さて、今日も一日頑張ろうっと!!