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第45話 村づくりの第一歩

 引き続き、日中はフェンス領域の拡張に追われる。ただ、野生動物の経路を横切るように寸断してしまうと襲撃の可能性も増えるので考慮は必要だ。道と居住区の区別はきちんと付けていく。この辺りは難民キャンプなどを参考に設計を進めていく。


 ただ、六十の体。睡眠時間が短くても問題無いとはいえ何度も起こされた後と言う事で、昼食後に気を抜いた瞬間欠伸が漏れてしまう。


「マスターお疲れのようです。夜番の交代を具申します」


 シリアル九八〇二二四が声をかけてくれる。オペレーターの皆には、日中住民の悩み相談などで交流を深めてもらっている。


「プロジェクトの初期だから無理をする時期だよ。慣れれば私がいなくても回るようになるから大丈夫」


「マスターの補助もオペレーターの役目です。本末が転倒しています」


 その言葉に、苦笑が浮かんでしまう。基本的に無茶はしないが、無理をするべき時はあるというのが持論だ。


「分かっているよ。ただ、現状では信頼感の醸成が急務と考えている。上層部や実働の人間とは問題が無くても住民の感情は別だからね。現状の有力者が率先して無理をする姿を見て上がる士気もあるさ」


「合理的ではないと判断しますが、近似の例は参照可能なため納得します。体調面で大きな問題が出る場合は早急に交代を改めて具申します」


 ふわっと微笑を浮かべたオペレーターに頼むと返すと、再び住人の中に戻っていった。


 私は開かれた天幕の中の机に、大判の地図を広げて今後の対応を模索する。

 最重要なのは居住区として安全圏を確保する。海産資源が入手可能なここを第一の拠点と決め、一旦居住区を作り上げていく。それが完了すればもう少し内陸に進みさらに居住区を。そこで農作物、少なくとも野菜を育て始めたい。そうやって拠点を飛び石に作りながらローマ近郊まで進める。あの辺りまで行けば水の心配は無いし、農地の生産も可能だ。自分達で食べる物が作る事が出来るようになれば、この生活も一旦のピリオドが打てる。


 そんな未来を考えていると、視界の端に人の動きが見える。顔を上げるとアルトがレティを乗せて走って寄ってきている。


「アルトさん。急いでどうしました? 住人の皆さんに問題でもありましたか?」


 アルトにはオペレーターと同じく、住人の慰撫に勤しんでもらっている。葛城船内での立ち回りから、住人の信頼も篤い。


「大きな問題では無いですが、子供達の中で体調を崩している子が増えてきました。それに伴ってお母さん方の中で若干不安を抱く人も増えています」


「具体的な不安みたいな事を口にされていますか?」


 私が問うと、ふいふいっと首を振る。


「先が見えないみたいな事を仰っていますが、それは現状の不満なだけだと思います。子供達の体調が崩れた事そのものが不安なだけだと思います」


 レーディルに育てられたというのもあってか、はたまた人の顔色を伺わなくてはいけない生活が続いたせいか、アルトの人を見る目と言うのもはっきりとしている。


「環境が目まぐるしく変化しましたから、弱い部分から綻んでいるのでしょうね。初期にあまり環境の乖離を生むと疑心暗鬼の温床になりますが、子供のためとなれば文句も出ないでしょう」


「では?」


 アルトが悲しそうな表情から、明るい瞳に変わる。


「きちんとした家に子供とその母親を収容しましょう。か弱い子供を守るという題目と、将来子供が生まれた場合は同じように扱うという話であれば納得も得やすいはずです。先に皆さんに知らせてもらえますか?」


「はい!!」


 元気よく返事をしたアルトがレティを乗せて、ぴゅーっと駆けていく。慣れたのか、楽しそうにしっぽを振っているレティが印象的だ。


 私は図面を見下ろし、再度今後の方針を修正する。あまり端に設置するのも護衛し辛いかと。集落の中心に一旦建物を建てて、そこから同心円に広げていく方が住民の心情的には分かりやすいし、交流もしやすいだろうと。第一の村、仮称フィウミチノの地図に建物を追記し、天幕を後にする。


 天幕の立ち並ぶ中心部に進むと、守るべきお母さんや子供達が一堂に集められた天幕が見える。近付くと、元気な子供達の声に混じって咳き込む声や泣き声が聞こえる。


「お邪魔をします」


 声をかけて天幕を開けると、中には数人のお母さん方が体調の悪い子供を皆で見ている。ざっと簡単に診察してみたが重篤な病気ではなく風邪の初期症状のようだ。インフルエンザ程の高熱は出ていないので、一旦は大丈夫だろうと考える。


「まだ少しの間はこの辺りでの生活が続きます。そこで相談なのですが……」


 今後の村の拡張計画とこの村の趣旨を説明した上で、一旦きちんと住める家を構築する旨を伝える。


「私達が優先されるなんて……良いのでしょうか?」


 お母さんの一人がおどおどと尋ねてくるが、安心させるように大きく頷く。


「子供の将来は誰もが気にしている内容です。誰も見捨てないと決めたのなら、弱い部分から補うべきでしょう。皆とも掛け合います。ご安心下さい」


 伝えると、安心した空気が天幕内に広がる。


 そうと決まればと言う事で、宵闇の刃の人に住人の責任者を集めてもらう。各村の村長や役職をしていた人がそのままスライドして今は就いてもらっている。

 さて、波乱なく話が進めば良いけど。価値観の違いというのも考慮しなければならないなと、重い首をこきりと回しながら説得内容を考える事にした。

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