第43話 ベースキャンプの準備
「皆さん、ご無事ですか?」
順に海岸に接岸し、荷物を下ろし終わった町や村の人々は息も絶え絶えでそこらに転がっている。行きは良かったのだが、一度船の環境に慣れてしまうと、結構な重労働だったようだ。
「それでも揺れない大地というのは何物にも代えがたいですね」
後ろに立ったレーディルがぐいぐいと地面を踏みながら万感の思いを吐き出す。途中まで酔っていた人はそれなりの数がいる。
「今日はそうそう動けそうも無いですね。波が上がってこない場所に簡易の宿泊設備を出して、少しずつ進みましょう」
元々レーディルやティロ達と話し合っていた通り、ベースキャンプを海岸に設営し、徐々に内陸に移動する。農作業に適した平地を見つければ、そこに村を築いて発展の礎にしていくという流れだ。大体の目星は上空から探索して見つけているが、実際のところは住人が確認しなければ分からない。タルリタ近辺とは違い、人の気配もなく倒木も多々と見えていた為、着陸までは無理だった。
「まだ昼前ですし、夕食までには間に合うようにしたいですね」
私はそう告げると、荷物の整理と家畜の世話をお願いする。近くの川はレーディルに伝えているので、ティーダイエル達が先導して村人達を誘導している。
ちょこちょこと後を追ってくるアルトとレティと一緒に、海岸を登り暫く歩くと、立ち枯れた木々が立ち並ぶ空間が見えてきた。
「ふむ……。上から見ていると空き地のように見えましたが……」
「結構ごちゃごちゃしています」
アルトと顔を合わせて、むむむと唸ってしまう。万能に近いと思っている力も所々抜けている感じで、例えば『かくのう』で立ち枯れた木々をどかす事は出来るのだが……。
「数が多いので、結構な時間がかかりそうです。アルトさん、レーディルさんに敷地の拡大を優先するので、天幕の準備を優先するよう伝えてもらえますか?」
「はい!!」
役割をもらったアルトがふんすっといった勢いで気合を入れて、たたーっと海岸へと駆けていく。あっと声をかけようとした瞬間に、ずりっと滑って転ぶ。
「砂は滑りやすいので、お気をつけてー」
「ふぁーい……」
心配そうなレティにてちてちと膝を撫でられて、ちょっと涙目のアルトがひょいっとレティを頭の上に乗せて駆けていく。
「さてと……」
ベースキャンプというからには、今の人数を収容出来るだけの空間を作らなければならない。出来れば周囲をフェンスで囲むところまでは済ませたい。というのも……。
「『ちず』で見る限り、野生動物は多そうですし……。獲物には困らないでしょうが。この辺りはティロさん達に任せた方が良さそうですね」
独り言ちて、眼前の木を『かくのう』で消去する。この木々も後で燃料材に使えば良い。自給自足、私の力はきっかけに過ぎない。最終的には、自らの手で自らの生活を回してもらう。今考える限り、私の寿命は後三十年しかない。出来れば皆の生活の礎は築ければと思う。
そんな事を考えながら『かくのう』を使っていると、小学校の校庭程度のスペースの木々やごみを格納し終わっていた。
「アキさーん、って、凄い!?」
ふと気付くと、背後からアルトの呼ぶ声が聞こえる。
「どうかしましたか?」
「皆さんお昼を食べ終わっています。アキさんがいらっしゃらなかったので呼びに来ました」
「あぁ、集中していましたね」
若干の苦笑を浮かべて、そっとアルトの頭を撫でる。くすぐったそうにするアルトにありがとうございますと感謝を述べる。昔から単純作業を始めると時を忘れてのめり込むタイプだったなと。
「では、戻りますか」
海岸に戻ると、住人の皆は荷物の整理が済んで、それぞれ何をするかの役割分担を話し合っているところだった。私もお昼を片手に話に混じる。
「家畜の餌は豊富ですが、獣の痕跡も多いです」
ティーダイエルの言葉に、ティロが後を継ぐ。
「周辺を回ったが、ちらちらと姿は見える。まだ様子見だが、夜になるともっと出てきそうだな」
その言葉に、私も少し考える。
「出来れば仮設住宅までを考えていましたが、下生えの草を除かないと難しいです。となると、本日段階で優先すべきは……」
と図解を地面に描きながら説明を進める。基本コンセプトは煮炊き用のスペースを中心に、それを囲むように天幕を、そしてその外側にフェンスを打っていく形だ。
「力仕事になりますので、男手をお願いします。女性の方は、夕飯の準備をお願いします」
そう告げると、よっしゃぁと言う感じで、人々が立ち上がる。この目的を見極めた瞬間に、立ち上がる人々が好きで社長なんてやっていたなと改めて思い返す。
ぞろぞろと人を引き連れて、作り上げた空間に辿り着くと息を呑む音が聞こえる。
「では、フェンスを出していきます。皆さんはどんどん立てて打ち込んで下さい。ティロさん達は、護衛をよろしくお願いします」
昼間だからと言って狙われないとも限らないので、出来る限りまとまって作業をしてもらう。遅々として進まなかったが、何とか夕暮れが迫る前に、高さ三メートル程のフェンスの壁が出来上がる。これも、一メートル単位で継ぎ足すフェンスでなければ間に合わなかっただろうし、脚立の数が揃えられなかったら、駄目だっただろうなと思う。やはり、人手は何物にも勝るなと改めて実感する。
「じゃあ、飯にするかぁ!!」
何人かを警護に残して、ティロが叫ぶと、明るい歓声が響く。何となくキャンプを思い出しながら、フェンスの中央に進みだした。




