第38話 襲撃の後の夕食と明日の用意
「あの、どうでした!?」
野営地に戻ると、息せき切って駆け寄ってきたアルトの心配顔に出迎えられる。頭の上にはうでーっと伸びてしまったレティが必死で掴まっている。
「成功ですよ。安心して下さい」
そう伝えると、腰が抜けたのかへなへなとアルトが崩れ落ちる。その姿を見て、ティロ達から微笑ましい笑い声が上がる。その様子を見ていたのか、レーディルがにこやかに近付いてくる。
「成功なさったのですね」
「はい。観戦武官の方は?」
「お預かりしていたワインを飲んだ後は、天幕でぐっすりです」
ワインには催眠誘導剤が入っている。酔いと一緒に回ればぐっすりだろう。
「野営の準備の方はどうですか?」
それはとレーディルが振り返ると、ティーダイエル達レーディルの御付きがこくりと頷く。彼等も軍の経験があり、天幕の設営などもお手の物だ。
「では、食事の方ですが……」
「すみません。この人数ですので、天幕の用意で手一杯でそこまでは手配しきれておりません」
ティーダイエルの言葉に後ろのティロ達が残念そうにえーっと叫ぶが、そっと私が手を挙げる。
「大丈夫ですよ。すぐに用意します。アルトさん、手伝ってもらって良いですか?」
きりっとした表情になったアルトが元気よく返事をするのは良いのだが、頭の上のレティを忘れているのか、振り回されて物凄く迷惑そうだ。
「先にレティを天幕に返して下さい。その後に、厨房用の天幕に」
そう告げて、ティーダイエル達にテーブルの準備をお願いする。天幕に入った私はさっさとガスコンロを出し、大きなアルマイトの薬缶にお湯を生み出す。注いでいる間にも冷えそうなので、コンロにかけておく。それと平行してお弁当屋さんの弁当を取り出し始める。流石に人数が人数だし、作っていては夜が明けかねない。関東で仕事をする時は社員の子に良く買ってきてもらっていた。お惣菜が自分で好きな量買えるのがありがたいお店だ。皆の好みを考えて、唐揚げ弁当にエビとブロッコリーと卵のマヨネーズサラダを別でチョイスする。
「えと……うわぁ……。凄いですね……」
アルトが天幕に入ってくると、既に中は弁当の山になっている。
「アルトさん、このカップにお湯を注いでいくので、混ぜてもらえますか?」
「あ、スープですね。分かりました!!」
そう告げるアルトの横で、どんどんとスープを生産していく。出来上がったものはティーダイエル達に運んでもらう。最後にまだ食べていないレーディルとティーダイエル達の分を用意して、テーブルの椅子にかける。野営地だけあって、この辺りは沼沢地でも孤島のように陸地になっているので、今晩一晩程度は問題無い。秋風から冬風に変わりそうな寒風の中、まだ初めに配った弁当から湯気が上がっているのに笑みが零れてしまう。
「では、食べましょうか」
私が声をかけると、皆が一斉にフォークを伸ばし始める。
「うわ、この丸いのうめぇ……」
「鶏だろ、これ。やわらけえし、水気が多いぞ」
「この時期に緑の野菜が食えるなんて……」
「母ちゃんに食わしてえ……」
なんだか涙声みたいなのが混じっているのは気になるが、アルトやレーディル達も美味しそうに食べている。
「このつぶつぶの物は大麦かと思ったのですが、違うんですね……」
周囲は篝火の灯り程度なので、なんとか視界が通る程度の明るさだ。米と判別するのも一苦労だろう。アルトが不思議そうに呟く。
「お嫌いですか?」
「いえ、甘いですし、香りも無くて食べやすいです。この鶏の揚げ物にもよく合います」
子供らしい微笑みを浮かべてぱくつくアルトを眺めながら、レーディルも和やかな表情を浮かべる。
「このような野営で温かい物を食べられるのは本当にありがたいですな……。それにこの主食……。味もさることながら、茹でるだけというのであれば加工も手軽ですな」
味で判断したのか、レーディルが呟く。
「茹でるというより茹で蒸す感じですね。もう少し経ったら詳細はお教えします」
「と言うと……」
「まぁ、皆さんにも関係がある事ですしね。新天地が見つかりました」
私がそう告げると、聞き耳を立てていたティロ達も色めき立つ。
「それは、どこだよ!!」
「まぁ、それは後のお楽しみと言う事で。食事が終わったら、明日の準備ですよ?」
そう告げて、はくりと唐揚げを頬張った。




