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第37話 やり過ぎない程度の致命的な打撃

 途中小休止を挟みながら、一気に大きく弧を描くように戦場を走り抜ける。私はティロ達に背負ってもらいながら、後方につける。


「いや、申し訳ない」


「構わん、しゃべるな。舌噛むぞ!! しっかし、爺さん軽いな……」


 ティロの軽口に付き合いながら、ほのかな灯りが遠く見える場所まで接近する。脱落者の確認をティロ達に任せて、弓手を所定の位置に着けていく。並行して、双眼鏡で現場を確認するが……。


「どうだい?」


「映像通り、殆ど歩哨もいないですね。陰になっている部分は分かりませんが、正面だけでしょう……。後方を攻められるとは想像もしていないですね」


 そう告げながら、双眼鏡をティロに渡す。


「時間的にはもう、就寝時間だろうしな。見張りも敵を警戒するというより、不心得者がつまみ食いに来ないようにしているって感じだな」


 光源も松明が二カ所程度の心細いものだ。


「見つからずに、実行出来ますか?」


 何が、とは問わない。


「その手の仕事に慣れたのはいるよ。不本意だけど、そういう仕事の仲介もあるんでな。殺しはしねえが、手引きまでは……な」


 ティロが告げると、後方で黒い服に身を包んだ男女が四名程で立ち上がる。


「では、手筈通りに」


 私がそう告げると、ティロが無言でハンドサインを後方に送る。すると、ヘッドギアを付けた四十名弱がさぁっと音も無く走り去っていく。基本的な戦術は簡単だ。見張りを排除し、光源を制圧、壺を集積所で割って火を点けて逃げる。火元は光源を使えば良い。そう思いながら双眼鏡を覗くと、先程の四名が早速集積地の方に駆けていく。見張りを排してからが侵入の時間だ。実行部隊は道沿いに埋伏している。こちらから見える見張りは気配の変化に気付いていないのか、変わらぬ様子で突っ立っていたが、黒い影が近付き、背後に迫った瞬間、飛沫を上げて崩れ落ちる。何呼吸か置いて、ティロらしき人影が手を振ると、一斉に実行部隊が広がり、集積地の天幕に向けて壺を投げつけていく。流石にここまでは音が届かないが、それなりに騒がしかったのか、奥の方で光が灯り始める。しかしその頃にはティロ達が手分けして火を点けて逃げ戻り始めている。乾燥した糧秣は壺の中に入った灯油と相まって、あっという間に燃え広がり始めている。第一段階は成功と。

 ティロが取りまとめて逃げているが、騎兵が数騎追いかけているのが見える。これも予想通り。林に入った辺りで紐を張った仲間達が馬を転ばせて、騎手を弓で殺して帰って来ている。それを見届けて、私もじりじりと後退する事にした。


「はぁはぁ……。やったぞ、やりきった」


 真っ暗闇の中、ティロの満足そうな叫びに、ほうっと熱い溜息が広がる。寒空の下ゆらゆらと汗の蒸気が揺らめいているのを肌で感じる。


「糧秣の方はどうです?」


「あぁ。輜重の馬車も一緒に格納していたからな。少なくとも、食い物に火が付いたのは確認してきた。水も開けて壺の中身をばら撒いたから、飲めねえだろう。あの水、臭いからな」


 興奮気味のティロが報告すると、皆がくくくと押し殺したように笑う。


「水の方もですか。助かります」


「薪も一緒に置いてあったからな。よく燃えるだろうよ」


 ティロの言う通り、遥か彼方を双眼鏡で覗くと、赤々とした火柱が上がっているのが見える。あそこまで火勢がついたら少々の水では消し止められないだろう。


「しかし、全部ではないですよね?」


「そりゃ、今日や明日の分程度は配っているだろうけど、そこまでは追いきれないって話だっただろう?」


 ティロの言葉に安堵を覚える。


「いえ。追い込み過ぎると自棄を起こすので。そのくらいで良いです」


 そう告げて、本拠地に向かう。後は明日の準備をすれば良いかと、これからの動きを改めてティロ達と練りながら、進み始めた。

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