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第34話 訓練の開始とお昼の調理

「この距離が大体松明の灯りが届く距離です。そこからは身一つで運んでもらいます」


 町の東の林でティロの配下との合同訓練が始まった。初回の挨拶の際には、一緒に着いてきたレーディルを見て驚いていたティロが印象的だった。レーディルが将軍職にあった際に、輜重の手伝いをしていた時に声をかけてもらったのを覚えていたらしい。軍の要職が気さくに労っているのを見て、マネジメントはかくあるべしと学んだらしい。ちなみに、レーディルはこちらの作戦には参加しない。観戦武官と一緒に戦場での待機となる。ついでに、しょんぼりと詰まらなそうなアルトもいる。


「うー。私、いても役に立ちません……。途中で止められたのが気になります。魔法使いがあのような形で毒を盛るなんて……。お姫様が死んでしまいます……。うわーん気になります」


 嘆いているのは承知しているが、うら若き乙女が昼日向からアニメに没頭するというのも健康に悪い。それに治癒の仕組みは分かったので私も使えるが、訓練の際には怪我をする事なんてしょっちゅうなので、ここでアルトに活躍してもらいたい。今後、同じ釜の飯を食う間柄になるはずだ。脅かされていたといっても上流の生活しかした事が無いアルトと下町の中、腕だけを頼りに生きて来たティロ。この辺りで仲良くしてもらうのも今後を考えると、望ましい。仲間の傷を癒す相手に悪感情を抱く事は出来ないだろう。


「はい、そうです。厚めに警護役は配していますが、死角はあります。慌てず着実に前進して下さい。この感覚が掴めないと、作戦の成功は危ういですよ」


 私はそう叫び、この後の訓練をティロに任せる。やはり、外部の私より、頭のティロに指示される方が良いだろう。粗方の説明は終わっているので、ティロも声を出しながら、怠ける人間をどつきに行っている。

 私は、この間に昼の用意をと大きめのテーブルを出し、食材を並べる。その量にこちらを見ていたアルトが目を丸くするが、五十人近くの人間の食材、それも運動後の食事だ。絶対に食べ切るだろうと思いながら牛肉のブロックを適当な大きさに切り分け、筋を切り、ミートハンマーで叩く。赤身の筋が多いところの方が煮物には適しているので、下拵えは丁寧に行う。

 用意したコールマンのストーブにガス缶を二つ装着し、肉を炒めてはシチュー鍋に移す。これを何度か繰り返し、牛の脂が出ている状態で、野菜を炒める。どうも肉の焼ける匂いが周囲に広がったせいか、ちらちらとこちらを見つめる視線を感じるが、まだまだと首を振ると諦めて訓練に戻っていく。

 シチュー鍋の半分くらいを具材が占めたら、ストーブの上に置き、鶏ガラ出汁を出して、注ぎ込む。最初は強火で温め、ふつふつとしてきたら、弱火に戻す。ぐらぐらとならない程度の火力でゆったりじっくりと火を通していく。

 鍋の様子をアルトに任せて、ピザ窯を出して炭に火を着けて余熱を加える。どうせこの人数だ、一気に焼いていった方が効率的だろうと、大きめのピザ窯にしてみたが、温もるまでに時間がかかるかなと少し後悔する。ちなみに、このピザ窯は知人がイタリアンのお店を出す際にプレゼントした物だ。郊外型の店なので、かなりの容量になっている。窯の中でまだ赤々と炎が燃え盛っているのを崩しながら、中の温度を確認する。徐々に温もっているのが分かったので、アルトの元に戻る。真剣な表情で、くるくると言われた通りにシチュー鍋をかき混ぜているのを微笑ましく思いながら、お玉を受け取る。ざっと灰汁を掬い、お肉の塊を取り出して食べてみる。十分に中まで火は通っているので、カレールーを投入する。出来ればスパイスから調合したかったが、そこまで時間も無い。少し邪道だなと思いながら火から降ろしアルトにルーが溶けるまでかき混ぜるのを再度お願いする。ただ、粘度が出始めたルーをかき混ぜるのは結構体力がいるのか、必死な表情でかき混ぜていた。レーディルを呼んできた方が良かったかなと思いながら、フライパンでジャガイモなどの具用の野菜を炒め、熱が通ればそのまま鍋に投入していく。そのまま余熱と冷める際に味が染み込むのを期待して、蓋を閉めて放置する。

 手が空いたアルトと一緒に、熱が籠ったピザ窯に冷凍のナンを差し込んでいく。扉を閉めて、一分ほどしたら取り出す。外はかりかりとして、バスケットに移す際にはくたりと中のもっちりを感じさせる。屋外の鮮烈な空気の中、盛んに湯気が立ち上るナンを次々と重ねていく。


「ふわぁ……。甘い、良い香りです……」


 アルトが乙女らしからぬ仕草で思いっきり香りを楽しんでいたのは内緒だ。隙を見て、再度シチュー鍋を火にかけて、アルトにしっかり混ぜるようにお願いする。大量のナンが焼きあがる頃には、カレー鍋も温かな湯気をくゆらせていた。


「ご飯が出来ましたよ」


 周囲に広がるカレーのスパイスの香りに集中力を失っているのが目にとれるので、さっさと皆を呼ぶ事にする。さて、お昼ご飯としようか。

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