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第31話 会戦の準備の始まり

「七日後の予定だ」


 宰相に面会を申し出ると、嫌そうな表情の宰相が眠そうな顔で応接の間に現れる。そして、会戦の日取りを確認したら開口一番その言葉だけである。


「あまりに余裕の無い日程ではないですか?」


 そう尋ねると、渋面をしかめっ面まで変化させて、醜く口を開く。


「あの小娘が呼び出しに時間をかけたのが問題であろう。呼び出された身ならば黙ってこちらの依頼に応じよ。場所はこの地図の通りだ」


 居丈高に言いたい事だけを言い、薄い皮を一枚投げると、さっさと扉から出ていく宰相に、心ならずも唖然としてしまった。名目だけとはいえ、戦争をするのにこの態度では士気が下がる。裏を知っている私はともかく、周囲の人間がどう思うかだ……。もう既に、切り捨てた人間と思い込んでいるのかも知れないが、結果が出るまで隠すのが普通ではないだろうか。友軍の刃は、自らの背中にこそ存在すると考えるが……。


「御用はお済でしょうか?」


 侍従が若干申し訳なさそうな表情で声をかけてくれたタイミングで、思考が途切れる。駄目だ、あまりに予想外で非建設的な話に表情にまで出ていたらしい。


「手数をかけました。日程が分かったなら、後は対応だけです。本日はありがとうございます」


 そう告げて、城から出る。七日後と言う事は、相手の軍はもう出立しているだろう。ヘリでの偵察の時に一緒に確認出来れば良かったが、これは別途で偵察に出るしかない。『宵闇の刃』に協力を求めるにしても、訓練期間は必要となる。かなりアバウトかつ簡素な作戦になりそうだなと思いながら、酒場へと急いで歩を進めた。


「いらっしゃい……あら、お爺ちゃん」


 いつものウェイトレスが声をかけてくれる。店の中は朝の喧騒が過ぎたのか、落ち着いた雰囲気になっており、客も老人が数名座っている程度だ。


「どうも。出来れば、ティロさんに連絡を付けて欲しいのですが」


 そう声をかけると、カウンターの向こうのマスターが顔を上げ、首をくいっと軽く横に向ける。すると、ウェイトレスが何も言わずこくりと頷くと、厨房の方に入っていく。


「仕事は受けず待っているようだ。決まったのか?」


「はい。急ぎの仕事になりそうなので……」


「そうか……。寂しくなるな」


 ティロもマスターには、この仕事の後に町を出る事を伝えていたのだろう。心持ち寂寥を感じる表情を浮かべながらマスターが作業をしているカウンターにかけ、前と同じく木の実とワインを頼む。マスターは品を出すと、後はこちらを気にする素振りも無く黙々と作業を続けている。私は宰相に渡された皮を広げる。質の悪い羊皮紙のようで、硬く、所々が曲げに耐え切れず、割れていた。公的機関が使う物品の質がここまで悪いのかと顔を上げると、壁に貼られている羊皮紙が目に入る。余程そちらの方が薄くしなやかに見える。一事が万事かと考えながら、記憶の中にある上空から見た景色と地図を照らし合わせていく。


『平地とはいえ……沼地じゃないか……』


 流石に呆れて心の中で叫びそうになった。国と国の中間地点辺りで平地を探したのだろうが、記憶が確かなら水場が近く、大きな蓮のような植物が繁茂していた地帯だ。よく五千もの兵を引き連れる向こうが了承したと思うほどに、劣悪な戦場だ。通常なら文字通りの泥沼の戦いを想定しなければならないだろう。『ちず』を思い浮かべ、この周辺の人間大の生き物を検索すると、光点がびっしりと浮かぶ。距離的には向こうの拠点を出て、移動を始めた程度だろう。五日後と言う事で、等分に割って移動距離を想定してみる。この場所を知っているなら、騎兵は無いか……。叩くなら、兵站……出来れば糧食を全て処理出来れば、それだけで戦争が終わるか……。

 目を瞑り、『ちず』を見ながら、そんな事を考えていると、ウェイトレスのお待たせの声が響き、目を開く。店の入り口には笑顔のウェイトレスとぶすっとしているが無聊を慰める必要が無くなった期待もどこかに隠して良そうな目元のティロが立っていた。


「爺さん、やっとか?」


「はい。話がまとまりました」


「そっか、じゃあ、上借りるわ。内緒話だ」


 そう告げて、かつかつと一人先に階段を上がるティロの後姿を眺め、くすりと笑いが漏れそうになる。若い人間の血気盛んさは好ましくも眩しいものだなと。遥か昔を思い出しながら、再度皮を折り畳み、席を立った。

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