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第26話 温かな雨

 昔将軍だったと言う事もあり、レーディルの顔は売れている。そのため、小さな箱馬車を用意してくれたようだ。御者(ぎょしゃ)も信用のおける人間らしいという事で安心して馬車に乗り込む。


「では、町を出て道が続く辺りでよろしいですか? 馬車が反転出来るだけの広さとなるとそこまでは遠くに出られませんが……」


「はい。町の人間の興味を引かない程度の距離が保てれば十分です。もう間もなく門も締まるでしょう。御者の人を雨の中、野営させる訳にもいきません。急ぎましょう」


 そう声をかけると、レーディルから同意の頷きが返り、御者への指示が送られた。相変わらずのがたがたに顔が歪むのが分かる。もうばれているからと指をぱちりと鳴らして注意を引きつけながら『せいぞう』でクッションを生み出し、レーディルとアルトに差し出す。アルトはいそいそと敷いて、ぽふりと座り込み、ニコニコとしている。レーディルは感触を確かめ、アルトの見よう見まねで尻の下に敷く。


「これは……。綿とも違う感触でしたが……。如実に衝撃が変わりますね」


「素材が違いますから。これも魔法ですね」


「はぁ……。このような自由な魔法は聞いた事がありませんな。やはり、隔絶した実力を秘めてらっしゃるのですね……」


 レーディルが誤解して感心してくれているので、そのまま評価を受けておこうと考える。別に正直に喋ってもなにも良い事はない。少なくとも事が終わるまでは大人しく味方でいてもらう方が重要だ。

 そんな事を考えていると、がたりと馬車が大きく跳ねて、一気に振動が酷くなる。


「門を抜けて、舗装路を外れましたな」


 がたがたと暫く走っていると緩やかに速度が落ちて、やがて停車する。


「レーディル様、これ以上進むと戻れないです」


 御者が窓を開けて報告してくれたので、クッションを戻し、皆で降りる。雨は霧雨のように細くなっていたが、まだしとしとと降り続いている。レーディルが何かを御者に握らせたと思うと、馬車が大きく反転し、元の道に戻っていく。


「お金……ですか?」


「はい。急な話でしたし、雨の最中個人的な話を聞いてもらったので。酒の一杯でも飲まなければ、冷えるでしょうから」


 将として多くの人間を率いていた筈なのに、個人に細やかな心遣いが出来る姿勢は好感が持てるなと思いながら、ランタンを生み、もう暫く歩く。足元の泥濘(ぬかるみ)にサンダルが捕られ、歩きにくくはあったが、藪を抜けて昨夜の場所までと進む事にした。アルトが大丈夫かなと後ろを振り返ると、思った以上にしっかりと追ってきている。やはりこの世界で育った子供の方が、こういう局面では強いかと感心する。


「泊っていたのはこの辺りですね」


 藪が乱れている場所を見つけ、レーディルに声をかける。


「そうなのですか? 煮炊きの跡も無いようですが……」


 レーディルが不思議そうに告げるのを聞き終える前に、キャンピングカーを二台、藪の奥側に生み出し、設置する。


「な!? こ……これは!?」


 クッション程度の小物では驚かなかったが、流石に箱馬車より大きな物を二台も出せば驚くか。


「アルトさん、左側をお二人で使って下さい。体が冷えたでしょうから、先にシャワーを浴びてゆっくりしておいて下さい」


「アキさんはどうなさるんですか?」


「私は、隠蔽をし終わってからシャワーを浴びて、食事の準備をします」


「お手伝いを……」


 と言っているが、アニメの続きをみたいなと言うのが表情に浮かんでいるので、思わず笑ってしまう。


「それなりに長くお義父様と離れていたのです。積もる話もあるでしょう。私の事は包み隠さずお伝えしてもらって構いません。ごゆっくり」


 そう告げると、アルトがこくりと頷き、放心したレーディルを引きずっていく。私は先日と同じく迷彩シートをかけて、藪を切り、偽装を済ませて車内に入る。濡れた服を一旦戻して乾いた清潔な物をクローゼットに用意し、ガウンと下着を持って、シャワー室に入る。さてさて、レーディルはどんな気持ちでシャワーを浴びるのか。少しだけ面白みを感じながら、まずは味方が増えた事を神に感謝しながら、温かな雨を浴びる事にした。

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