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第25話 信頼とは

「あの……アキさん。今日は晩御飯と寝る所はどうするのでしょうか?」


 感動的な握手による心のやり取りの横で、アルトがくてんと首を傾げる。


「今の話を聞いている限り、城内で宿泊するのは危険でしょうね。名目をどうするかですが……。戦争用の触媒を手に入れると言う事で、町の外に出るしかないですか……」


 私がそう言うと、レーディルが表情を変える。


「屋外で野営ですか? もうこの季節には辛いかと思います。宿屋か、せめてアルトだけでも城で預かる事は出来ませんか?」


 レーディルが必死になって言うと、逆にアルトが非常に嫌そうな顔に変わる。


「お義父様、私もアキさんと一緒に外で宿泊します」


「いや、何を言っているんだ。もう夜はかなり冷え込む。この辺りは人里に近いとはいえ、野犬の類はうろついている。食糧難で手を出しているので、恨みも買っているはずだ。そんなところに……」


 あぁ……。肉のために犬すら狩らないといけないくらい追い込まれているのか。上空から見ても、牧場なんてなかったし、畜舎は有ったがあのサイズでは農作業用の家畜を飼うので精一杯だろう。狩りだけではこの規模の町だと安定して肉を供給するのは難しいだろう。森はあるが、どれだけの猟師を維持出来るのか……。


「でも、アキさんが安全にしてくれるし……。ねぇ、アキさん」


 どうもアニメの続きが見たいのか、かなりそわそわ必死に訴えてくる。


「そう……ですね。実際に私の力の一端でも知って頂く事は必要かと思います。夕ご飯はまだですよね? もしよろしければ、ご一緒しませんか?」


 そう告げると、レーディルが不可解な表情を浮かべるが、アルトの顔を見て、諦めたように席を立つ。


「移動はどうなさいますか?」


「町の出口までは馬車で。そこからは歩きでしょうか。あまり町の人間には見られたくないもので」


「魔法使いの深奥の知識ですか……。それは確かに。分かりました。馬車の手配と食事の件を話してきます。それに私も身分がばれないように動いた方が良いでしょう」


 そういうとレーディルがこくりと頭を下げて部屋を出ていく。


「よろしかったのですか?」


 アルトが少し申し訳なさそうに聞いてくる。その気の使い方をするなら、初めからレーディルと同道して欲しかったなとちらりと思うが、詮無い話かと思い直す。まだまだ子供なのだから、欲求の方が強く出るのだろう。それに……。


「レーディルさんは私の力を認識した訳ではありません。言葉を幾ら用いようと、自らの目で、体で経験した事しか信じられないでしょう。まずは、国を出ても生を維持出来ると言う事を認識してもらう事。それが肝心だろうと考えます」


 そう答えると、アルトがほっとした表情を浮かべる。


「すみません。男性の話し合いに差し出口とは思いましたけど……」


 そう告げるアルトの頭を優しく撫でる。


「お義父様にも体験して欲しかった。そうですね?」


 そう聞くと、こくんと頷く。その姿に淡い微笑みが浮かんでくる。あぁ、良い親子なのだろう。


「優しいですね、アルトさんは」


 その言葉にほわっと紅潮したアルトがじりっと下がり、頬を抑える。


「あの……!! 私、無礼な事や無理な事ばかり言っていますか!?」


「いいえ。人を信じると決めたなら胸襟を開くのが私の流儀です。レーディルさんは今回の計画で救うべき対象です。それには、レーディルさんにも私を信じてもらう必要があります。それが人と人の交流、交渉だと考えています」


 そう答えると、所用が済んだのか、レーディルが部屋に戻ってくる。


「では、アキさんの手伝いをすると言う事で、外出の許可を得て参りました。国王陛下にもこの情報は伝わります……が、どうした、アルト?」


 紅潮したアルトの表情を見たレーディルが訝し気に聞く。


「いいえ、お父様。少しだけ嬉しい事がありました」


 守るべき対象に義父が含まれているのを確信して安心したのか、アルトが柔らかい満面の笑みを浮かべて、そう告げた。

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