第24話 老臣の決心
「話が見えない……。貴方を呼び出す件も国王陛下の命であったにも関わらず……か?」
レーディルが呆然とした表情で、絞り出すように声を発する。アルトは話が分かっていないのかきょとんとしていたが、不穏な空気は察したのか、徐々に表情を曇らせている。
「信じられない……です。陛下が……。確かに足らぬところはあったかもしれません。しかし、それは我々が支え、ここまでやってきたはずです……。それが、国を売るなどと……。」
「信じて頂けるのならば。あれが、国王陛下の真意なのでしょう」
私が静かに言うと、レーディルがはっとした表情を浮かべ、沈痛な面持ちになる。
「そう……ですね。このままでは座して死を待つばかりですか……」
アルトを眺め、悔しそうに噛み締めるように言葉を発する。
「まぁ、予想の範疇ではありますが」
「え?」
俯いていたレーディルが首を上げる。
「アルトと一緒に『バーシェン』の現状は確認してきました。間違いなく戦争に討って出る体制の国家ではないでしょう。逆にそんな無駄な支出をするくらいなら、開発や貿易に回すという意思をありありと感じましたから」
「では……?」
「私も老いた身です。手足となる者は必要ですが、町で目途は付けております。後は決心だけです」
その言葉にレーディルが首を傾げる。
「決心……。何をでしょうか?」
「国を捨て、新たなる地で一から生活を立ち上げる……事でしょうか」
「それは……」
ふむ、元将軍と言っても、ゼロからの開発経験なんて無いだろう。警護に入った経験があるなら、村の開拓の辛さだけは認識しているだろう。だが、アルトはそれを聞き、喜びを露にしている。
「手伝っては頂けるのですね?」
アルトの言葉に頷きを返す。
「勿論です。人の世の常とはいえ、善き人もいれば悪しき人もいる。出来れば知り合った方が不幸になるのは見たくない。それが人情でしょう」
「しかし……一からの開発などと……。生きやすい場所は他の人間が開発を進めているかと考えますが……」
レーディルの言葉にそっと右腕を差し出す。
「それはこれから探します。戦争まではある程度時間はありますね?」
「はい。通常は会戦の案内を送ってきます。それに基づき、戦争を開始します。それが来ていないのならば、まだ二週間ほどは猶予があります」
「では、その間に新天地も含めて対応します。どうか、共に歩む決心だけ、決めてもらえませんか?」
その言葉に、レーディルが固まる。今の生活を捨てる、捨てなくても殺される、『バーシェン』に逃げても国王の影響で殺される可能性は高いだろう。その悩みの末に、アルトの表情を見て、目に力が戻る。
「これだけ……この子が信じ切っているのです……。何か策はあるのでしょう。分かりました。この国を捨て、新天地での生活に賭けます。どうかアルトと共に助けてもらえませんでしょうか?」
「分かりました。用意はこちらでしますが、実際に生きるのは皆さんの意思です。では、動くとしましょうか。アルトさんはどうします?」
「出来るならお手伝いしたいです!!」
きらきらとした瞳で訴えてくるが、美味しい物が食べたいという副音声が聞こえてきそうだ。
「分かりました。レーディルさんには城の情報を探ってもらいます。私とアルトさんで新天地の調査と戦争への対応を考えます」
「それは……暗殺の対応も含めてですか……?」
「はい。それも含めてです。ご安心下さい」
にこりと安心させるように微笑みを返す。
「功臣を使い捨て、自らの欲で守るべき民を捨てるというのです。その高慢の代償は払ってもらう事にしましょう」
微笑みながら、差し出した右手で握手を交わす。その力強さにアルトの未来への心配を感じる。安心して欲しいという思いを込めて、力強く握り返した。