第22話 献上品とはったり
「と言う事は、この国の者では無いというのか?」
実際の質疑応答には宰相が出てきて、話をし始めた。
「はい。このように寒い土地ではありませんので、かなり南の方かと思われます。ただ、祭壇の祠から南は海が広がっているようなので、もっと東の生まれなのだろうとは考えます」
「ふむ。それでいてその流暢で美しい共通語は信じられぬな。東の民はもっと雑音に近いと聞くが……」
どこの人間もオラが国が一番か。そこからお国自慢が始まりそうだったので、手を翳す。
「話の途中で恐縮ですが、本日は陛下に献上の品をお持ちしております。修行中に神より賜った物でございます」
そう告げると、後ろで待機していた侍従がやや緊張しながら、国王の前に跪き、風呂敷包みを高々と持ち上げる。
「開けよ……」
今まで黙っていた国王が初めて口を開く。
侍従が縮緬の風呂敷をはらりと剥いた瞬間、閣僚達の口から溜息のような言葉にならない声が謁見室の空気を振るわせる。艶やかな漆の深い黒に螺鈿の楚々とした蝶がその優美さを誇る箱。
「宝石の……欠片を埋め込み、絵と成すか。神の御業と言うのは恐ろしいな」
国王が呟き、こくりと頷く。侍従が箱を開けると、中には極彩色に彩られた、孔雀の羽が一本。
「神より賜ったペンでございます。布、羊皮紙問わず何にでも書ける漆黒の墨が無限に湧き出る逸品です。ただ、既存の墨に浸けられますと汚されたとして効力が失われるそうです。その件のみ、ご留意下さい」
実際は、インドかどこかのお土産でもらった孔雀の羽に油性のボールペンを仕込んだ物だ。余程箱の方が価値が高いが、そんな事気付く訳も無いかと起立を続ける。国王は侍従から渡されたペンと羊皮紙に何かを書き、その書き心地を確かめる。
「良いな……。直答を許す」
「ありがたき幸せ」
再度、最敬礼を行い、感謝を示す。
「では、此度、私を呼び出した目的をお教え下さい」
「飢饉に伴い、隣国側が食料を渡すか否かを突き付けてきおった。断れば開戦とな。民を思えば、飲めぬ。故に、戦争を選んだ。その為の術として、お前を呼び出した」
詰まらなそうに口を開く国王。と言うか、贈り物をしたんだから名前くらい名乗っても良い気はするが。知ってて当たり前の話として処理されているのか、舐められているのか。
「しかし、町の様子を伺うと、戦争の気配は感じませんでしたが?」
「若返りの宝玉は高価な品だ。それを三つ、既にお前の老体に使っておる。これ以上の戦費は割けられん」
「では、私一人で五千からの相手をしろと?」
「不服か? 一騎当千の者を呼び出すのが祠の力であろう。既に、宝玉を使ったのだぞ?」
なんて無茶振りかと思うが……。
「近くに練兵のための場所などはありますか?」
周りの閣僚に問うと、鎧を着込んだ将軍職っぽい男性が窓から指で示す。町の外周の外側に、土で赤茶けた高校のグラウンド程度の空間がある。
「あそこで訓練を行っておる。本日は誰もおらぬな」
「そうですか。では、実力を確認頂く事としましょう」
そう告げて、宰相を手招きし、練兵場を指し示す。その右手で指をぱきりと鳴らす。刹那、練兵場は劫火の海に埋め尽くされる。ひぃぃと叫びながら、腰を抜かす宰相。居並ぶ閣僚達もその惨状に言葉を失う。
「大軍の相手は得手です。存分に戦果を期待して下さいませ」
私は、にこりと微笑み、国王に告げた。