第21話 謁見前の小細工
説明内容としては、地理の説明、国同士の内情を除くとアルトの補足といったところだろうか。だが、何故軍が動いていないかの部分に関してはもう少し突っ込んだ話が出来た。
「ここに訪れる前に町の中で少し商人と話をしました。古今、戦争と言えば、物資を大量に使うのは変わりないはず。それにしては、全く動きが無いようですが、どういう事なのでしょうか?」
そう告げると、レーディルがやや消沈した表情に変わる。
「国王陛下の意向です。国民に余計な不安を抱かせれば、不安が物資の高騰を招くと。ただでさえ飢饉で足りないところに買占め、売り惜しみが発生すれば確かに大きな問題となります。ただ、実際に動かないのとは話が別です。現在、戦争の話を知らされているのは、閣僚各位とアルトの後見人である私だけです」
言っている内容を聞く限りは常識人だし、情報の出し方も取捨選別はあろうが、誠実に出してくれている。この人は信用出来るな。
「ふむ……。民を思うのと、実際の脅威に対する対応は別でしょう……。不敬を承知で言うならば、民の反乱を恐れての愚行な気はします。例え、私が仮に全てを対処出来るとしても、兵員を用意しない事とは同義になりません。散兵や迂回戦術を取られた場合、王都まで辿り着く兵が出ないとも限りません。……国王陛下は何をお考えなのでしょうか……」
そう告げると、レーディルも難しい顔に変わる。
「はい。それは仰る通りかと思います。ただ、私も直接政務には口出しは出来ません。もう、将軍職を退いた身です。詳細は直接、国王陛下とのお話で真意を探ってもらえればと思います」
「分かりました。国王陛下との謁見はいつ頃を想定しておけばいいですか?」
「元々馬の脚を考えて、本日の夕刻は空けておりました。暫し、部屋で休んで頂き、その後に謁見の流れです」
「そう……ですか。では、案内をお願いします。あ、お茶や水も結構です。謁見まで少し作業を行うので、時間になったらお呼び下さい」
そう告げると、ティーダイエルが一礼し、案内をしてくれる。部屋は、アルトの部屋から二つほど離れた階段側の部屋だった。中に入ると、本当に客間という感じで、ベッドと文机、それに衝立程度しか見えない。裏側を覗くとおまるが一つ。ベッドの方は藁も新しいもので、思った以上に好待遇か。取り合えず、若干でも時間があるのならと椅子に座り、机の上で小細工を始める。螺鈿細工の箱に物を納めて、用意が完了した辺りで声がかかる。
「アキ様、陛下が謁見の間でお待ちです」
侍従の声が聞こえたので、箱を献上品と伝え手渡す。正絹の縮緬風呂敷を開けて箱を確認した瞬間、侍従が目を見張る……。
「恐れながら献上品と言う事で、中を検めてもよろしいでしょうか?」
「それがお役目なら、どうぞ」
そう伝えると、二人がかりで恐る恐る箱を開けると、ほぉと溜息ともつかない声が漏れる。
「眼福でした。では、謁見の間へ」
そう告げられ、最上階の三階へと階段を上る。部屋の前には両開きの扉があるのだが、どう考えても害意のある赤い光点が一つ。ふむ、場所的には一人しかいなさそうなのだが、まさかなと思いながら、侍従に頷きを送る。
侍従が、扉を開き宣言する。
「英霊アキ様のご到着です。拝謁の儀へと移ります」
そう告げられたので、私は居並ぶ閣僚達の真ん中を進む。この国の作法は知らないが、基本的には壇上から三歩ほど離れた場所で最敬礼だろう。事前に教えてもらえなかったと言う事はこちらの考えるやり方で問題無いのだと考える。英霊扱いの人間はどの時代のどんな人間が現れるかは分からない。逆に国王側がこちらの機嫌を損ねかねないという不安もあるのだろう。
かつりかつりと真っ直ぐ国王を見つめ、歩を進める。手前三歩で足を揃え、手をピタリと体の横に付け、九十度のお辞儀をする。
「国王陛下。本日はご尊顔を拝謁する名誉を賜り、恐悦至極に御座います」
その言葉を合図に謁見が始まった。