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第20話 義父

 宿屋に寄って鍵を返して、馬車を回収する。二人で乗って、クッションの無い状態でガタガタと庭を走り、石畳に出るが、凹凸が激しくどうしても表情が硬いものになる。


「すみません、もう少しですので……」


 アルトが声をかけてくるが、そんなに表情に出ていたのだろうか。確かにお尻から腰、そして頭まで衝撃がガッツンガッツンと走るので、ひくひくと頬は動いていた気もする。


「いえ。お気になさらず。あぁ、門が見えてきましたね」


 重厚な扉は馬車が一台通れる程度の隙間しか開けていない。有事の際にはそのまま閉める事が出来るし、そもそも頻繁に出入りする朝夕以外はこれで十分なのだろう。門の横には衛兵が立っており、馬車を止められる。


「これはアルト様。お帰りですか? して、横の老人は?」


「無礼な事を仰らないで下さい。陛下の執事長に取り次いで頂いたら許可が下りるでしょう」


「畏まりました。少々お待ち下さい」


 馬車の上に座ったままで指示が出せるレベルの人間……と言う事か。最近、物を食べて美味しそうな顔をしているか、モニターでアニメ映画を見ている姿しか知らないので、少し新鮮な気分だ。

 暫く衛兵の監視の中待っていると、伝令が帰ってくる。耳元で何かを囁くと、門衛の姿勢が改まり、そのまま通そうとする。


「荷物の検査などは必要ないですか?」


「その籠だけですよね? 短剣程度でどうこうなる話ではありませんので、必要無いです」


 ふむ。相手がそういうならば良いかと、そのまま城内を進む。そのまま表玄関のロータリーを巡り、玄関前で停車する。


「お嬢様!!」


「ティーダイエル」


 若い仕立ての良い服を着た男性が、馬車に寄ってきて、アルトの降車をエスコートする。私は相手がこちらに回ってくる前にさっさと降りる。しかし、アルトのあの粗末なポンチョとこの若者の服との乖離が良く分からない。何故大切にされているはずのアルトがあんな粗末な服装で、一人過酷な場所に残されたのか。


「お客様ですね。私はアルト様付きの侍従のティーダイエルと申します」


「丁寧にありがとうございます。アキと申します」


 そう伝えると、ティーダイエルは一礼し、玄関へと誘導してくれる。そのまま応接間まで通されると、木のソファーを進められる。


「では、レーディル様をお連れ致します。少々お待ち下さい」


 聞いた事の無い名前に軽く首を傾げると、アルトが耳元で囁く。


「私の義父です。元、王国の将軍でしたが、今は引退して、私の後見人になって下さっています」


 話していた内容で両親を失ったと聞いていたが、義父の話は出てこなかった。しかも元将軍が後見人か。思った以上に癒し手というのは権力があるものなのだろうか。そんな事を考えていると、ノックの音が聞こえる。返答すると、ティーダイエルがレーディルを連れてきた旨を伝えてきたので、私達は立ち上がり入室を許可する。

 かつりかつりと入ってきたのは身長としては私と同じくらいの高さの、立派な髭を蓄えた初老の男性だった。四十の半ば程度だろうか。髪や髭に白いものが目立ち始めている。


「初めまして、レーディルと申します。どうぞ、よろしく」


 そう告げて、胸に手を当てたので、同じく私も胸に手を当てる。


「初めまして、トシアキと申します。発音が難しいと思いますので、アキで結構です」


 そう返すと、口の中で小さくアキ、アキと繰り返し、ほのかに微笑む。


「アキさんですね。娘がお世話になりました。あなたが英霊と言う訳ですか」


「はい。遠い異国の者なので、無作法はあるかと思いますが、ご了承願います」


 軽く頭を下げて、そう伝えると、レーディルの笑みが深くなる。


「受け答えをお聞きして、話し合いが出来る方と分かりほっとしております。英霊の方々の中には、中々状況が理解出来ず混乱する方もいらっしゃいますので」


 そんな相手の接待をアルト一人に押し付ける意味が分からん……。


「では、ゆるりとして下さい。事情の方を説明致します」


 レーディルがそう言ってかけるのに合わせ、私達も座り直す。


「まず、アルト。苦労をかけた。無事務めを果たしてくれた事、誇らしく思う」


 その言葉に驚いたような顔を浮かべ、こくりと頭を下げるアルト。


「道中はご不便をおかけしませんでしたか?」


「いえ。事情に関しては知らされていないようなので、それには戸惑いましたが、分かる範疇でのお話は聞く事が出来ましたので。それに私は食事を必要としないので、大きな問題はありません」


 そう告げると、レーディルが目を見開く。


「食事を必要としない……ですか? 失礼、老年の姿といい、こちらも不思議に思っている事は多いです。若返りの宝玉をアルトは使わなかったのですか?」


「いえ。食事に関しては修行の末に魔法で体調を管理出来るようになりました。年齢に関しては、九十で他界したもので、使って頂いた宝玉ではこの歳までしか戻りません」


 今後、食事の機会が出るだろう事を見越して先に不要の旨を告げておく。正直、不衛生な食事を取ると下痢になる可能性の方が高い。


「九十ですか……。この国の長老でも七十です。余程高名な魔法使いだったのですね」


「いえ、世情には疎いです。深山のその奥にて修行を経て、世界の真理を掴む道半ばで眠る事となりましたから」


「なるほど……。五千の兵相手に英霊一人を呼び出して、何の意味があるのかと考えていましたが……。失礼、そのお姿を見て、若干侮っていました」


「それは仕方のない事です。私自身、体は若い時のようには動きませんので。ただ、広域を殲滅する術には長けておるつもりです。そちらの望む成果は発揮出来ると考えます」


 そう告げると、レーディルがやや申し訳なさそうな表情に変わる。


「安らかに眠っておられるあなたを再び起こした上で、お願いするのは些か以上に無体とは思いますが、故国の危機故の勝手とご了承下さい」


「私自身、道半ばで果てた未練もあります。危機を回避した後の自由を許可してもらえるならば、何も思う事はありません」


 そう告げると、ほっとした表情に変わる。


「では、具体的な説明に移るとしましょう」


 レーディルが頭を上げて、ティーダイエルの方に頷くと、地図を持ってきて、テーブルに広げてくれる。やっと詳細が分かるかと少し楽しみになってきた。

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